飲食店の苦悩その1

万事休す

あと2ヶ月で資金ショートする。

ナポリピッツアの店が軌道に乗らず、そこまで追い詰められていました。

個人事業主ですから、資金ショートの意味するところは明らかです。

『家族をどうやって養おう』

『妻はどうなってしまうのか?』

不安が増幅して、気が狂いそうになります。

コロナ禍にあって、こんな思いの飲食店経営者が無数にいると思うと心が痛みます。

努力の範疇を超えています。

だからこそ、努力できるところまで引っ張ってあげてほしい。

市場が自由でいられない今だけは、政治が頭とお金を使って欲しいと思います。

帰国

アメリカの医療機関に数千万円の支払いをしました。

現金では足りず、売れる限りの有価証券を手放して、最悪家を売るか担保にして借金するしかない。

追い込まれながら、何とか支払うことができました。

借金はしなくて済みましたが、日本に帰って無職で暮らすには心細い金額でした。

帰国後いろいろな手続きに入りました。

妻の保険金支払い請求。

これには驚きました。

日本に住んでれば、健康保険に守られて、医療保険の支払い金額はお釣りがくるほど手厚く支払われます(加入内容によります)

医療費が桁違いのアメリカで支払った金額に対して、手元に入ってきた医療保険の支払額は焼け石に水でした。

アメリカで、気が遠くなる金額の支払いを続けていた時、USD1000(約10万円)の救急車代金が端金に思えた。

あの時の感覚に引き戻されました。

家族の渡米に際して、駐在は長くないと踏んでいたので、合法的に年金支払いを休止していました。

したがって障害年金も全く支給されず。

1種1級障害ですから、頂けない金額は大きい。

当てが一つずつ外れて行きました。

家内が倒れてから、家内の心配とお金の心配が途切れる事なく押し寄せていました。

人生終わったと決めつけていて、妻には笑顔でリハビリをサポートして、一人では死にたくて仕方がない、メンタルが不安定な時期でもありました。

子供達が居なかったら、私はあってはならない事をしでかしていたかもしれません。

出店

経済的に少しずつ首が絞まりながら、毎日が過ぎていきました。

収入ゼロなので所持金が減っていく。

ただでさえ辛い家内に、我慢させる事も辛い。

家庭教師、肉体労働、道路清掃、交通整理等、働く術を探りましたが、田舎町ですからそんなに仕事はありません。

子供達の学校にもお金がかかるし、家内はまだまだ1人でいられる状態ではない。

家内の親父さんが営んでいた居酒屋の古い店舗が遊んでいました。

考えて考えて、フリーズした頭で考えて、店内改装をしてナポリピッツァの店を始めることに。

お世話になっていたイタリアの会社の社長さんが石窯を送ってくれる事になり、いよいよ逃げられない状況に追い込まれました。

営業開始

石窯で焼けばどんなピザでも美味しいだろう。

本当に浅はかでした。

ピザ屋なのにピザに自信がありません。

ランチではイタリアで覚えた手打ちパスタが少し出て、ピッツァは全く。

夜は殆どお客様が来ません。

お酒を飲んでいただきたいのに、田舎町ですから運転して来るしかない。

お客様は来なくても、窯を温めておかなければならず、薪代はかさみます。

仕込んだ生地も捨てる事が多く、どんどん縮小。

この町に石窯を備えたピザ屋はないから、絶対に流行ると思ったけど、ニーズがないから店がないだけ。

店の改装費用でもっと目減りした少ない資金が、時限爆弾のように減っていく。

ピザ屋なのにピザが美味くない。

まずいとは言わないけれど、感動はしない。

ナポリで食べて感動したあのピッツアには程遠い代物でした。

奇跡その1

生地の配合を変えたり、粉を変えたり、酵母を変えたり、考えられることは全て試したと思います。

自分が満足できないのに、お客様が満足する筈がありません。

香ばしくて軽い、足し算では出せない特別な香り。

一気に食べ切ってしまう程の美味しさ。

自家農園で育てているバジル、プーリア州のトマト、こだわりのモッツアレラチーズ、そして自慢(になる筈)の生地。

モッツアレラチーズと生地を極めるため、寝る間も惜しんで研究しました。

しかし、捨てる生地が増えるだけ。

焦りました。

勿体無いから昼も夜もピザ。

ある日、冷蔵庫の奥に忘れられた生地がありました。

息子が忘れたもの。

『こんなの出せないから食うぞ』

そう言って成形に入りました。

元気が無い成形しにくい生地です。

なんとか形にして400℃の窯の中に。

一瞬でわかりました。

元気よく弾けて、一気に良い香りが立ち上ります。

『これだ!!!』

軽くて香ばしい生地。

焼き上がって口に入れた瞬間、出会えないと諦めかけていたナポリで食べたあの味でした。

雑誌掲載(広告ではありません)、テレビ取材をきっかけにお客様が増え始めました。

店の窮地は脱することができました。

それから起こる数々の奇跡を書いていきます。

第一話はこの辺りで。

飲食店の苦悩その2に続きます。

飲食店の苦悩その1” への12件のフィードバック

追加

  1. こんばんは~
    色々とご苦労されて居るのですね……

    生きていればこそですものね〜
    みんな同じですよーーー

    何かのご縁です……

    陰ながら応援してます🤗

    いいね: 1人

  2. お弁当がいつも凄いな〜と思っていたら、プロだったんですね。
    色々なご苦労されてきて、それでも前向きに生きているパッチングワーカさん凄いです。
    このような方が報われないはずはありません。
    コロナ問題が解決したら一度そちらに出向き食べてみたいです。😋

    いいね

    1. ありがとうございます。
      今の話と過去の話を混ぜながら書いているので、読まれていても時間軸がごちゃ混ぜになると思います。
      話すと長いのですが、平日は息子に店を任せて東京で海外向けエンジニアリングの仕事を、金曜日の最終便で大分に戻って週末の店の混雑を捌き、月曜の一番便でまた東京に、というパターンを2年間していました。
      娘が神経再生を研究したくて横浜市立大学に合格したのを期に、家族全員で東京に引っ越してきました。
      というわけで、今は店は閉じております。
      流石に体がキツくて持たないなーって思っていました。
      料理に関しては元プロです😄
      それもイタリアンの。
      石窯が無いと美味しいピッツアが作れないので、悲しいです。

      いいね: 1人

      1. いつもお忙しい中お弁当がとても美味しそうで、羨ましい限りです。お身体大切にしてくださいね。
        パッチングワーカーだけが頼りのご家族ですから。☺️

        いいね: 1人

    1. あそぶーこ様、コメントありがとうございます。
      あのピザは、発酵バター(使ってないです)と小麦が強く香る、そうでいて軽〜い、あっという間にぺろりといけるものでした。
      あの支援学校の生徒さんの作品のように、神様が宿っちゃいました😄
      だって本当に突然でしたから。
      諦めなくて良かったと思いました。
      嘘です。
      正直なところ、店を潰さずに済みそうだって安堵しました🙃

      いいね: 1人

      1. パッチングワーカーさん、ありがとうございます!

        やっぱり神さまはいますね^ ^

        ピザの説明がまたまた美味しそうです!!

        思いがけないところで、奇跡は起きるものなんですね。✨✨
        宇宙の粋な計らいに感じます。

        いいね: 1人

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