イライラして眠れない夜が続くあなたへ——神山先生が語る「肝鬱気滞」と加味逍遙散

特別なことは何もないのに、気持ちがざわざわして落ち着かない。夜、布団に入っても頭のなかでぐるぐると考えごとが回り続け、気づけば2時、3時。翌朝はだるさを引きずったまま出勤し、ちょっとしたことでイライラして家族に当たってしまう——。そんな日が続いていませんか。胸のあたりがつかえる、ため息が増える、生理前になると症状が重くなる。病院で検査をしても「異常なし」と言われる。けれど、確かに身体はつらい。その違和感は、あなたの思い過ごしではありません。東洋医学には、その状態を説明するはっきりとした言葉があります。

西洋医学から見る「ストレス性の不調」

西洋医学では、こうした症状はしばしば「自律神経失調症」「適応障害」「軽度のうつ状態」「更年期症候群」などと診断されます。処方されるのは抗不安薬、睡眠導入剤、抗うつ薬、あるいはホルモン補充療法などです。これらの薬は症状を一時的にやわらげる力を持っており、必要な場面では大きな助けになります。しかし、多くの方が「飲んでいる間は楽だが、根本的に変わった気がしない」「薬をやめるとまた戻ってしまう」という感覚を抱えています。なぜなら西洋医学は、脳内の神経伝達物質やホルモンという「結果」に働きかけるアプローチだからです。その手前で何が起きているのか、という問いへの答えは、東洋医学のなかにあります。

東洋医学が見る「肝鬱気滞(かんうつきたい)」という証

神山先生はこうした症状を、五臓のうち「肝」のはたらきが乱れた状態として診られます。ここで言う肝とは、現代医学の肝臓そのものではなく、気(エネルギー)をのびやかに巡らせ、情緒を整える機能のまとまりを指します。肝は「疏泄(そせつ)」という大切な役目を担っています。疏泄とは、気を身体のすみずみまでのびのびと流す働きのこと。ストレス、我慢、言えなかった言葉、やり場のない怒り——こうしたものが積み重なると、肝のはたらきが鈍り、気の流れが停滞します。これが「肝鬱気滞」という証(しょう)です。

気が滞ると、まず情緒に波が出ます。イライラ、憂鬱、ため息、胸脇部のつかえ。さらに滞りが続くと、上に昇って頭痛や不眠を生み、横に広がれば胃腸を乱して食欲不振や胃痛を招き、下に降りて生理痛や月経前症候群を重くします。「検査では異常なし」なのに全身のあちこちが不調なのは、ひとつの原因(気の滞り)が複数の場所に姿を変えて現れているからなのです。「病気」ではなく「気の病」。この見立てができると、ようやく次の一手が見えてきます。

神山先生が処方される漢方——加味逍遙散を中心に

肝鬱気滞の代表的な処方が「加味逍遙散(かみしょうようさん)」です。「逍遙」とはゆったり散歩するという意味。滞った気をほどき、血を補い、ほてりを鎮める——まさに「滞った心身を散歩に連れ出す」ような処方です。とくに、イライラとのぼせを伴い、月経トラブルを抱える女性に適しています。同じ肝鬱でも、胸脇の張りや腹部の違和感が強く、ストレス性の胃腸症状が前に出る方には「四逆散(しぎゃくさん)」。のどに何か詰まった感じ(梅核気)が強ければ「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」。不眠と動悸が目立つなら「抑肝散(よくかんさん)」や「加味帰脾湯(かみきひとう)」が候補になります。どの処方が合うかは「証」次第——舌の色、脈、お腹の張り方、体質の全体像から判断されるもので、自己判断ではなく必ず漢方に詳しい医師や薬剤師にご相談ください。

薬と並んで神山先生が必ず伝えられるのが、日々の養生です。①香りのよい食材(春菊、三つ葉、柑橘類、ミント、ジャスミン茶)で気を巡らせる。②夜11時までに寝る。肝が血を養う時間は23時から午前3時です。③軽いストレッチや散歩で身体の側面(肝の経絡が走る場所)をゆるめる。④泣きたいときは泣き、言いたいことは紙に書き出す。感情を溜めないことが、何よりの疏泄です。

まとめ——「治す」のではなく「巡らせる」

イライラや不眠は、あなたが弱いから起きているのではありません。我慢強く、真面目に、ずっと頑張ってきた肝が、少し息切れしているだけです。東洋医学は、その状態に「肝鬱気滞」という名前を与え、「気を巡らせる」という方向を示してくれます。加味逍遙散が力を貸してくれる場面もあれば、夜11時の就寝と柑橘の香りだけで十分なこともある。治すのではなく、整える。押さえ込むのではなく、流す。今夜、深呼吸をひとつ、ゆっくりと。


※本記事は東洋医学の考えに基づく養生の知恵を紹介するものであり、医療行為の代替を推奨するものではありません。症状がある方は必ず医療機関を受診してください。漢方薬の服用は、漢方に詳しい医師・薬剤師の指導のもとでお願いいたします。


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