後期に風邪で休む学生が増えたら——東洋医学の「衛気」で考える大学生の風邪予防と大学ができる支援

「10月に入ってから、風邪で授業を休む学生が目立つ」「学園祭の準備期間になると、保健センターに来る学生が増える」——後期が本格的に始まるこの時期、そんな実感をお持ちの教職員の方は多いのではないでしょうか。

欠席連絡のメールには「発熱のため」「喉が痛くて」といった言葉が並び、1〜2日で戻ってくる学生もいれば、そのまま欠席が続いてしまう学生もいます。ゼミや部活動では、一人が体調を崩すと周りに次々と広がっていくこともあります。

「風邪くらい」と見過ごされがちですが、後期の早い段階でつまずくと、授業への復帰や単位取得にも影響が出かねません。今回は、大学生の風邪予防を東洋医学の「免疫」の考え方から見直し、大学として何ができるかを考えてみます。

大学生の風邪予防、一般的にはどう考えられているか

一般に、風邪の多くはウイルス感染によるもので、予防の基本は手洗い・換気・十分な睡眠・栄養バランスのよい食事とされています。大学でも、掲示やポータルサイトでの注意喚起、消毒液の設置などが定着してきました。

また、秋から冬にかけては空気が乾燥し、昼夜の寒暖差も大きくなるため、ウイルスが広がりやすく、身体の防御力も落ちやすい時期だと説明されます。

ただ、現場ではこんな疑問も生まれるのではないでしょうか。「同じ教室で過ごしているのに、毎回風邪をひく学生と、まったくひかない学生がいるのはなぜか」。注意喚起だけでは届きにくい、学生一人ひとりの「ひきやすさ」の違いがあるように感じられます。

東洋医学で見る大学生の風邪——「衛気」という身体のバリア

東洋医学では、外から入ってくる寒さや乾燥、病気の原因を「外邪(がいじゃ)」と呼びます。そして、それを体表で防ぐ力を「衛気(えき)」と考えます。衛気は、いわば身体の表面を守る見えないバリアで、現代でいう免疫の働きに近い概念です。

この衛気をつかさどるのが「肺」です。東洋医学の肺は呼吸だけでなく、皮膚や鼻・喉の潤いと防御を受け持っています。秋は肺が乾燥の影響を受けやすい季節で、喉のイガイガや乾いた咳から風邪が始まりやすいのはそのためです。

さらに、衛気の材料は毎日の食事から作られます。食べ物を消化してエネルギーに変えるのが「脾(ひ、消化吸収の働き)」です。朝食抜き、コンビニのパンだけの昼食、夜遅いカップ麺——こうした食生活が続くと脾が弱り、「気虚(ききょ、気の不足、いわばガス欠状態)」になって衛気が作られにくくなります。

もう一つ見逃せないのが夜更かしです。東洋医学では、夜は身体が気血を補い、蓄える時間と考えます。学園祭の準備、レポート、アルバイト、スマートフォンで睡眠が削られると、生命力の土台である「腎(じん)」が消耗し、防御力全体が下がっていきます。

つまり、風邪を繰り返す学生は「肺の乾き」「脾の疲れ」「腎の消耗」が重なり、衛気というバリアが薄くなっている状態と読み解けます。秋の欠席は、生活リズムの乱れを知らせるサインでもあるのです。

大学生の風邪予防のために、大学ができること

大学・教職員ができる支援策

  • 声かけは「体調」と「生活」をセットで:風邪明けの学生に「もう大丈夫?」だけでなく、「最近ちゃんと眠れてる?」「朝ごはんは食べられてる?」と一言添えると、生活の乱れに気づくきっかけになります。
  • 学園祭・イベント準備期の配慮:実行委員やサークルの中心学生は無理をしがちです。準備の最終下校時刻を守るよう呼びかけたり、担当教員から「休むのも準備のうち」と伝えたりするだけでも効果があります。
  • 学食での「温かい汁物」企画:秋から冬にかけて、根菜の味噌汁や生姜入りスープ、白きくらげや梨など肺を潤す食材を使ったメニューを「風邪予防週間」として打ち出すと、食生活への関心を高められます。
  • 健康講座・ポータルでの発信:手洗い・換気に加えて「睡眠」「朝食」「乾燥対策」を一枚にまとめたセルフケア案内を配信するのも一案です。
  • 連携の仕組みづくり:欠席が続く学生の情報を、教務・学生支援・保健センターがゆるやかに共有できると、早めのフォローにつながります。

学生に伝えられるセルフケア

  • 首元を冷やさない:首の後ろには「風門(ふうもん)」というツボがあり、東洋医学では風邪の入り口とされます。朝晩の寒い時間帯はストールやパーカーのフードで首元を守るよう伝えましょう。
  • 朝の一杯の白湯と温かい朝食:コンビニでも、おにぎりに温かい味噌汁やスープを組み合わせるだけで脾が働きやすくなります。
  • 0時までに布団に入る:完璧でなくてよいので、週の半分でも早めに寝る日をつくることを勧めます。
  • 喉と鼻の潤いを守る:マスクやこまめな水分補給、加湿で肺の乾燥を防ぎます。

なお、風邪をきっかけに気分の落ち込みが強くなったり、欠席が長く続いたりしている学生については、学内の保健センター・学生相談室や医療機関につなぐことが大切です。高熱が続く、息苦しさがあるなどの場合も、早めの受診を促してください。

まとめ——風邪を「防ぐ」より、バリアを「整える」

大学生の風邪予防というと、手洗いやマスクといった「外から入れない」対策に目が向きがちです。東洋医学の視点を加えると、睡眠・食事・乾燥対策によって、学生自身の衛気というバリアを「整える」ことが見えてきます。

教職員の何気ない一言や、学食の一杯の汁物が、学生のコンディションを守る支えになります。風邪を「治す」ことより、ひきにくい身体に「整える」ことを、キャンパス全体で後押ししていきたいですね。

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季節の変わり目に子どもが熱・咳をくり返すのはなぜ?——東洋医学で見る「子どもの肺と脾」と秋の子育て養生

朝晩がひんやりしてきたと思ったら、子どもが鼻をぐずぐずさせ、夜になるとコンコンと咳き込む。先週熱が下がったばかりなのに、また保育園から「お熱です」の電話——。季節の変わり目のたびにこんなことが続くと、「私の体調管理が悪いのかな」「服装がいけなかったのかな」と自分を責めたくなってしまいますよね。

でも、どうか安心してください。季節の変わり目に子どもが体調を崩しやすいのは、あなたの育て方のせいではありません。子どもの身体がまだ「育っている途中」だからこそ起こる、自然なことなのです。今回は、東洋医学の養生の知恵から、秋の子どもの体調との付き合い方を一緒に見ていきましょう。

季節の変わり目に子どもが熱を出す・咳が出るのはなぜ?

一般的には、子どもがよく熱を出すのは「免疫がまだ発達途中だから」と説明されます。生まれてから少しずつ、さまざまなウイルスや細菌に出会いながら免疫を獲得していくため、特に集団生活を始めた最初の1〜2年は、風邪をひく回数が多いのが普通です。

さらに秋は、昼夜の寒暖差が大きく、空気も乾燥し始める時期。鼻やのどの粘膜が乾くと、ウイルスが入り込みやすくなるとも言われています。夏の疲れが残ったまま気温が下がることで、体調を崩しやすくなるのも一因です。

ですから、季節の変わり目に子どもの体調が揺らぐのは、ある意味で「成長の通り道」。西洋医学的にも、多くの場合は心配しすぎなくてよいものとされています。

東洋医学で見る「子どもの肺と脾」

東洋医学では、子どもの身体を「大人を小さくしたもの」とは考えません。子どもには子ども特有の体質があるととらえます。

子どもは「肺」と「脾」がまだやわらかい

東洋医学には、子どもは「肺常不足(はいじょうふそく)」「脾常不足(ひじょうふそく)」という考え方があります。つまり、呼吸や皮膚のバリアを担う「肺」と、消化吸収を担う「脾(ひ)」が、まだ発達の途中で弱りやすい、ということです。

ここでいう「肺」は、肺そのものだけでなく、鼻・のど・皮膚など外の世界と触れ合う「身体の表面の守り」全体を指します。秋は五行で「肺」の季節。そして肺は乾燥が苦手です。秋の乾いた空気は、まだ守りの薄い子どもの肺に負担をかけやすいのです。

脾と肺は「親子」の関係

もう一つ大切なのが、脾と肺のつながりです。東洋医学では、脾が食べ物から作り出した「気(エネルギー)」が肺に送られ、身体の守りの力になると考えます。脾は肺の「お母さん」のような存在なのです。

夏の冷たい飲み物やアイス、暑さによる食欲の低下で脾が疲れていると、秋になって肺に十分な力が届かず、咳や鼻水、発熱を繰り返しやすくなります。一方で子どもは「陽気(ようき、身体を動かす温かいエネルギー)」が盛んなので、熱を出すのも早いけれど、回復するのも早いのが特徴です。

今日からできる秋の子育て養生

特別なことは必要ありません。毎日の暮らしの中で、少しずつ「肺」と「脾」を守ってあげましょう。

食事:温かく、白いもの・消化にやさしいものを

  • 冷たい飲み物は常温か、ぬるめの白湯・麦茶に切り替える
  • 秋の「白い食材」(梨・れんこん・大根・かぶ・豆腐・白ごまなど)は、肺を潤すとされる
  • おかゆ・うどん・やわらかく煮た野菜など、脾にやさしいものを中心に
  • 甘いお菓子や揚げ物のとりすぎは脾に負担をかけるので、少し控えめに

食べない日があっても大丈夫。無理に食べさせず、食べられるものを少しずつで十分です。

生活:乾燥と寒暖差から守る

  • 加湿器や濡れタオルで、室内の湿度を50〜60%程度に
  • 朝晩はベストや薄手の羽織りで調節。首元・背中を冷やさない
  • 汗をかいたらこまめに着替えを
  • 早寝を心がけ、夜はゆっくり身体を休ませる

親子スキンシップ:背中をやさしくなでる

肩甲骨の間あたりには、東洋医学で肺と関係が深いとされる「肺兪(はいゆ)」というツボがあります。寝る前に、手のひらで背中の上のほうを円を描くようにやさしくなでてあげましょう。押したりもんだりする必要はありません。温かい手でふれるだけで、子どもも安心して眠りにつきやすくなります。

おなかも同じように、おへそのまわりを時計回りにゆっくりなでてあげると、脾をいたわる親子のふれあい時間になります。

こんなときはすぐ小児科へ

養生はあくまで日々の土台づくりです。次のようなときは、迷わず小児科を受診してください。生後3か月未満で38℃以上の発熱がある、ぐったりして元気がない、水分がとれずおしっこが少ない、呼吸が苦しそう(ゼーゼーする・肩で息をする)、咳で眠れない日が続く、熱が3日以上下がらない、けいれんを起こした——。「いつもと様子が違う」という親の直感も大切な受診のサインです。

まとめ:整えながら、一緒に育っていく

季節の変わり目に子どもが体調を崩すのは、肺と脾がまだ育っている途中だから。熱や咳を繰り返しながら、子どもの身体は少しずつ強くなっていきます。

大切なのは「病気をさせない」ことより、崩れたときに戻れる身体を「整えて」あげること。温かいものを食べ、よく眠り、背中をなでてもらう。その積み重ねが、何よりの養生です。そして看病で疲れたお父さん・お母さんも、どうか自分の身体をいたわってくださいね。

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秋の長雨で頭痛・だるさがつらい——「気象病」を東洋医学で読み解く、湿と気圧の養生法

雨が何日も降り続くと、朝から頭が重い。首や肩がこわばって、身体がなんだかだるい。耳が詰まったような感じや、ふわっとしためまいが出ることもある——。そんな「秋の長雨」の時期のつらさに、心当たりはありませんか。

9月から10月にかけては、秋雨前線が停滞し、台風も次々とやってきます。晴れたと思えばまた雨、気圧が上がったり下がったりをくり返す季節です。病院で検査を受けても「特に異常はありません」と言われ、「天気のせいだから仕方ない」と我慢している方も多いのではないでしょうか。

でも、その不調は気のせいではありません。身体はちゃんと、空の変化を感じ取っています。今回は、長雨と気圧の変化による不調——いわゆる「気象病」を、東洋医学の視点から読み解いてみます。

「気象病」とは?秋の長雨で頭痛・だるさが出る理由

天気の変化によって起こる頭痛やめまい、だるさ、古傷の痛みなどは、近年「気象病」や「天気痛」と呼ばれるようになりました。

一般的な説明では、耳の奥にある内耳(ないじ)が気圧の変化を感じ取り、その情報が脳に伝わることで自律神経のバランスが乱れる、と考えられています。気圧が下がると交感神経と副交感神経の切り替えがうまくいかず、血管が広がって頭痛が起きたり、身体がだるくなったりするというわけです。

対策としては、鎮痛剤や酔い止めの薬、規則正しい生活、十分な睡眠などがすすめられます。これらはもちろん大切です。ただ、「薬を飲んでも毎回つらい」「同じ天気でも平気な人と、寝込むほどつらい人がいるのはなぜ?」という疑問には、なかなか答えてくれません。

東洋医学で見る秋の長雨——「湿」と「脾」、そして「水の巡り」

東洋医学では、天気や季節の変化を身体の外からやってくる影響として「外邪(がいじゃ)」と呼びます。長雨の季節に身体に入り込みやすいのが「湿邪(しつじゃ)」、つまり余分な湿気です。

湿邪は重く、べたつき、下にたまりやすい性質を持っています。頭に湿がこもると「頭に濡れたタオルを巻かれたような重さ」になり、全身に広がると手足のだるさやむくみになります。

この湿をさばく役割を担っているのが「脾(ひ)」です。脾は西洋医学の脾臓とは少し違い、消化吸収と、身体の水分を運んで巡らせる働きをまとめた考え方です。夏の冷たい飲み物や食べすぎで脾が疲れていると、水をうまくさばけず、身体の中に「水滞(すいたい)」(水の巡りが滞った状態、いわば身体の中の水たまり)ができやすくなります。

同じ気圧の変化でも、つらさに個人差があるのはこのためです。もともと身体に水がたまっている人ほど、外の湿気や気圧の変化に揺さぶられやすいのです。とくに「耳の詰まり」や「ぐるぐる・ふわふわするめまい」は、東洋医学では水の巡りの乱れが上に突き上げてくるサインとして捉えます。

さらに秋は「肺」の季節でもあります。肺は呼吸だけでなく、身体の水を全身に行き渡らせ、下へと降ろす働きも担っています。秋の長雨の時期は、脾と肺の両方をいたわることが、気象病の養生の鍵になります。

今日からできる気象病の養生法

1. 冷たいものを控え、温かい汁物で脾を助ける

脾は冷えと湿気が苦手です。雨の日こそ、冷たい飲み物やアイスは控えめにして、温かい汁物を一品添えましょう。はと麦、とうもろこし、冬瓜、あずき、しょうが、ねぎなどは、余分な水をさばき、身体を温めてくれる食材です。

2. 雨の前日は「早めに休む」

気象病は、天気が崩れる前日や、気圧が下がり始めるタイミングに症状が出やすいといわれます。天気予報で雨が続きそうなときは、前日の夜更かしを避け、予定を詰め込みすぎないようにしておきましょう。

3. 耳と手首のツボで巡りを整える

  • 耳まわしマッサージ:両耳を軽くつまみ、上・横・下へ各5秒ずつやさしく引っ張ったあと、ゆっくり後ろへ5回まわします。耳周りの血の巡りをよくします。
  • 内関(ないかん):手首の内側、手首のしわから指3本分ひじ寄り、2本の筋の間。めまいや吐き気があるときに、反対の親指で5秒押して離すを10回ほどくり返します。
  • 陰陵泉(いんりょうせん):膝の内側、すねの骨のきわを下から指でなぞり上げ、指が止まるくぼみ。湿をさばくツボとして知られ、足のむくみやだるさがあるときにおすすめです。

4. 漢方という選択肢

東洋医学では、同じ「頭痛」でも体質や状態を表す「証(しょう)」によって、選ぶ処方が変わります。

  • 五苓散(ごれいさん):水滞の証。のどが渇くのに尿が少ない、むくみ、雨の前の頭痛に使われる代表的な処方です。
  • 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう):水滞に気の突き上げが加わった証。立ちくらみ、ふわふわするめまい、動悸があるタイプに。
  • 半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう):脾が弱く、痰湿(たんしつ)がたまった証。胃腸が弱く冷えやすい人の頭痛・めまいに。

漢方は体質との相性が大切です。服用を考える場合は、必ず医師・薬剤師に相談してください。

まとめ——秋の長雨と気圧の変化に、揺さぶられない身体へ

天気を変えることはできません。でも、天気に揺さぶられにくい身体に「整える」ことはできます。

秋の長雨による頭痛やだるさ、気象病は、身体の中の水の巡りと、それをさばく脾と肺からのサインです。温かいものを選ぶ、早めに休む、耳や手首をいたわる。そんな小さな積み重ねが、次の雨の日を少し楽にしてくれます。

なお、これまでに経験したことのない激しい頭痛、手足のしびれやろれつが回らないといった症状、長く続くめまいがある場合は、天気のせいと決めつけず、すぐに医療機関を受診してください。

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秋の空咳が止まらない、検査では異常なし——東洋医学で読み解く「肺の乾き」と養生法

風邪は治ったはずなのに、コンコンと乾いた咳だけが残る

朝晩が少しずつ涼しくなってきたこの時期、こんな経験はありませんか。

熱も鼻水もないのに、喉の奥がイガイガして乾いた咳がコンコンと出る。夜、布団に入ったとたんに咳き込んで眠れない。話している途中で急にむせる。痰はほとんど出ないか、出ても少なくて切れにくい。

病院で診てもらうと「肺の音はきれいですね」「レントゲンも異常なし」。咳止めを出してもらっても、なかなかすっきりしない——。

「原因がわからない咳」は、本人にとってとてもつらいものです。周りの目が気になったり、眠りが浅くなって日中もだるかったり。でも、それはあなたが大げさなわけではありません。秋は、身体にとって「乾き」との付き合いが始まる、れっきとした難しい季節なのです。

秋の空咳、一般的にはどう考えられている?

西洋医学では、長引く咳の原因として、風邪のあとに気道が敏感になる「感染後咳嗽(かんせんごがいそう)」、アレルギーが関わる「咳喘息」、胃酸の逆流による咳、空気の乾燥による喉の粘膜の荒れなどが考えられます。

秋は寒暖差が大きく、湿度も夏に比べて一気に下がります。空気が乾くと喉や気管の粘膜を守る潤いが減り、わずかな刺激でも咳が出やすくなる——これは一般的にもよく知られた説明です。

対策としては、加湿、マスク、水分補給、必要に応じて咳止めや吸入薬などが中心になります。もちろんこれらは大切です。ただ、「加湿もしている、薬も飲んでいる、それでもなぜか長引く」という方も少なくありません。そこで、少し違う角度から身体を見てみましょう。

東洋医学では「肺が乾いている」サインと見る

東洋医学では、秋は五臓(ごぞう:身体の働きを5つに分けた考え方)のうち「肺」と深く結びつく季節とされます。ここでいう「肺」は、呼吸だけでなく、皮膚や鼻・喉の潤い、身体の表面を守るバリア機能までを含む広い働きのことです。

そして肺は「潤いを好み、乾燥を嫌う」臓とされています。秋の乾いた空気は「燥邪(そうじゃ:乾燥という外からの負担)」と呼ばれ、まっさきに肺を傷めやすいのです。

さらに見逃せないのが、夏の疲れです。暑い夏にたくさん汗をかくと、東洋医学でいう「陰液(いんえき:身体を潤す水分や血のもと)」が消耗します。夏の冷たい飲み物で胃腸(脾)が弱っていると、潤いを作り出す力そのものも落ちています。つまり、

  • 夏に潤いを使い果たし(気陰両虚:気と潤いがともに不足した状態)
  • そこへ秋の乾燥がやってきて
  • 肺の潤いが足りず、喉や気道がカサカサになる

という流れで、乾いた空咳が起こると考えるのです。これを「肺陰虚(はいいんきょ:肺の潤い不足)」や「肺燥(はいそう)」と呼びます。

同時に、肌の乾燥やかゆみ、便秘(肺と大腸は表裏の関係とされます)、声がかすれる、といった症状が出ていないかも見てみてください。これらが重なっていれば、「肺の乾き」がひとつの手がかりになるかもしれません。

今日からできる、肺を潤す秋の養生法

1. 「白い食材」で内側から潤す

東洋医学では、白い色の食材が肺を養うとされます。

  • 梨:喉を潤す代表格。生でも、すりおろしてお湯で温めてもOK
  • 白きくらげ・れんこん・百合根・大根・豆腐・山芋:スープや煮物に
  • はちみつ:お湯に溶かしてゆっくり飲む(1歳未満の乳児には与えないでください)

逆に、唐辛子などの辛すぎるもの、揚げ物、アルコールは潤いを消耗させやすいので控えめに。

2. 咳を鎮めるツボ「尺沢(しゃくたく)」と「太淵(たいえん)」

  • 尺沢:肘を曲げたときにできる横じわの上で、太い腱(上腕二頭筋の腱)の親指側のくぼみ。反対の手の親指で、息を吐きながら5秒押して離す、を5〜10回。
  • 太淵:手のひら側の手首のしわの上、親指側で脈を感じるあたり。強く押さず、やさしく円を描くように1分ほど。

阿久沢先生の鍼灸の考え方でも、肺の経絡(けいらく:気の通り道)に沿ったツボは、秋の喉や咳のケアによく用いられるものです。

3. 「吐く息」を長くする呼吸

肺は「吐く」ことで新しい気を取り込むとされます。鼻から4秒吸って、口をすぼめて8秒かけて細く吐く。寝る前に5回ほど行うと、咳込みやすい夜の喉が落ち着きやすくなります。

4. 漢方という選択肢

乾いた咳が続き、痰が少なく切れにくい、喉がつまるような感じがある——こうした「肺陰虚」の証には、**麦門冬湯(ばくもんどうとう)**がよく知られています。神山道元先生が伝える漢方の考え方でも、同じ咳でも「冷えの咳」「熱の咳」「乾きの咳」で使う処方が異なる、という「証」の見極めが基本です。体質によって合う・合わないがありますので、漢方薬を試す場合は必ず医師・薬剤師に相談してください。

5. 寝室の湿度と首元の保温

湿度は50〜60%を目安に。寝るときは首元にタオルやスカーフを巻き、喉を冷やさないようにしましょう。

「治す」より「整える」——秋は肺をいたわる季節

検査で異常がないのに続く空咳は、身体が「夏の疲れと秋の乾燥で、潤いが足りていないよ」と教えてくれているサインかもしれません。

咳を無理に止めることだけを目指すのではなく、潤いを補い、呼吸を深め、よく眠る。その積み重ねが、秋から冬へと続く季節を乗り切る身体の土台になります。

ただし、2〜3週間以上咳が続く、息苦しさや胸の痛み、発熱、血の混じった痰がある場合は、自己判断せず早めに医療機関を受診してください。

「治す」ではなく「整える」。今日の一杯の梨湯から、始めてみませんか。

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後期に欠席が増えた学生への声かけ——東洋医学で読み解く「秋の気分の落ち込み」と大学ができる学生支援

後期の授業が始まって2〜3週間。前期はきちんと出席していた学生が、急に遅刻や欠席を繰り返すようになった。課題の提出が止まり、ゼミで話しかけても反応が薄い。メールを送っても返事がない——。欠席が増えた学生に、どんな声かけをすればいいのか。

学生支援や教務、ゼミを担当されている先生方なら、毎年この時期に同じような場面に出会っているのではないでしょうか。「夏休みで生活リズムが崩れただけ」と様子を見るべきか、踏み込んで声かけをするべきか。判断に迷うことも多いと思います。

実は、東洋医学では秋は「気持ちが沈みやすい季節」と考えられています。今回は、後期開始のこの時期に学生のコンディションがどう変わりやすいのか、そして大学・教職員として何ができるのかを、養生の視点から整理してみます。

後期に欠席が増えた学生——一般的に考えられている原因

後期の始まりに欠席が増えた学生の背景として、一般的には次のようなことが挙げられます。

  • 約2か月の夏休みで生活リズムが夜型に崩れ、朝起きられなくなる
  • 前期の成績が返ってきて、自信をなくしたり単位の不安を抱えたりする
  • 3年生では就職活動、4年生では卒業研究のプレッシャーが本格化する
  • 日照時間が短くなることで気分が落ち込みやすくなる

医学的には、うつ状態や季節性の気分の変化、睡眠リズムの障害などが背景にあることもあり、状態によっては専門的な治療が必要です。大学としては、保健センターや学生相談室へ早めにつなぐことが何より大切です。

そのうえで、まだ受診や相談をするほどではない「なんとなく調子が出ない」段階の学生に、どう関わるか。ここで東洋医学の見方がひとつのヒントになります。

東洋医学で見る秋——「肺」と「悲しみ」の季節

東洋医学では、季節と五臓(肝・心・脾・肺・腎)が対応していると考えます。秋に対応するのは「肺」です。

肺は呼吸をつかさどるだけでなく、「気(き:身体を動かすエネルギー)」を全身に巡らせる役割を持っています。そして五臓にはそれぞれ関係の深い感情があり、肺に対応するのは「悲(ひ)・憂(ゆう)」、つまり悲しみや憂い、物思いです。心の疲れが身体のどこに現れるかは、心の疲れは、どこに溜まるのか——身体から見るメンタル不調でも詳しく紹介しています。

秋の乾燥した空気は、デリケートな肺の潤いを奪います。肺が弱ると気を巡らせる力が落ち、気持ちも沈みがちになる。逆に、悲しみや不安が続くと肺の気が消耗する。東洋医学では、この悪循環が秋の「なんとなく元気が出ない」状態を生むと考えます。

さらに、夏休み中の夜更かしは「腎(じん:生命力の貯蔵庫)」を消耗させ、冷たい飲み物やアイスのとりすぎは「脾(ひ:消化吸収の働き)」を弱らせます。脾が弱ると「気虚(ききょ:気の不足、いわばガス欠状態)」になり、朝起きられない、やる気が出ない、という形で現れます(気の不足については「五虚」とは?東洋医学が教える5つの“虚”もあわせてご覧ください)。

つまり、後期に欠席が増えた学生は、「怠けている」のではなく、夏の疲れと秋の季節の影響が重なって、身体のエネルギーが足りなくなっている可能性があるのです。こう捉えると、声かけの仕方も変わってくるのではないでしょうか。

欠席が増えた学生への声かけと、大学・教職員ができる支援

大学・教職員ができる支援策

1. 「欠席3回」を声かけの合図にする
後期開始から3週間ほどは、出席状況の変化に特に注意を払う時期です。LMSの出席・課題提出データなどを使い、欠席が続き始めた段階で担当教員やアドバイザーが声をかける仕組みをつくると、早期に気づきやすくなります。

2. 身体の調子から入る、責めない声かけ
「なぜ来なかったの?」ではなく、「最近、眠れてる?」「朝、起きるのしんどくない?」と身体の調子から聞くと、学生は答えやすくなります。気持ちの問題として聞かれるより、体調の話のほうが口を開きやすいものです。

3. 保健センター・学生相談室へのつなぎ方を共有する
教職員向けに「どんな様子なら相談窓口につなぐか」の目安と、窓口の紹介方法を共有しておきましょう。気分の落ち込みが2週間以上続く、食事や睡眠がとれていない、といった学生は、ためらわず専門窓口へつなぐことが大切です。悩んでいる人に気づき、声をかけ、つなぐ役割については、厚生労働省の「ゲートキーパーになろう!」も教職員研修の参考になります。

4. 学食・健康講座で「秋の養生」を発信する
学食で梨やれんこん、豆腐などを使った「秋の潤いメニュー」を出したり、後期ガイダンスで生活リズムの整え方を短く紹介したりするのも、学生全体のコンディションを底上げする取り組みになります。

学生に伝えられるセルフケア

  • 朝、カーテンを開けて深呼吸を3回:肺に新しい空気を入れ、気を巡らせるスイッチになります
  • 白い食材をひとつ足す:豆腐、大根、れんこん、梨など。コンビニの湯豆腐や梨のカットフルーツでも十分です
  • 冷たい飲み物を白湯や温かいお茶に:弱った脾を休ませます
  • 日付が変わる前に布団に入る:腎を回復させ、朝の起きづらさを軽くします

学生自身が気軽に読めるメンタルヘルス情報としては、厚生労働省の若者向けサイト「こころもメンテしよう」を紹介するのもおすすめです。

まとめ——「怠け」ではなく「季節の揺らぎ」として見る

後期の始まりに調子を崩す学生は、決して珍しくありません。東洋医学では、秋は肺が弱り、気持ちが沈みやすい季節です。夏の疲れが重なれば、朝起きられなくなるのも自然なことです。

欠席が増えた学生への声かけは、責めるためではなく、体調を気づかうためのものです。大切なのは、学生を「治す」ことではなく、学生が自分の調子を「整える」きっかけを大学がつくること。小さな声かけと、相談窓口への確かなつなぎ。それが、学生が後期を乗り切る支えになるはずです。

よくある質問——欠席が増えた学生への声かけ

Q. 欠席が何回続いたら声かけをすべきですか?

明確な基準はありませんが、後期開始直後に2〜3回続けて欠席した段階で、担当教員やアドバイザーから軽く声をかけるのがおすすめです。早いほど、学生も返事をしやすくなります。

Q. 声かけで避けたほうがよい言葉はありますか?

「なぜ来なかったの?」「このままだと単位が危ない」など、理由を問い詰めたり不安をあおったりする言葉は避けましょう。「最近眠れてる?」など体調を気づかう言葉から入ると、学生は話しやすくなります。

Q. 東洋医学の養生は学生支援にどう役立ちますか?

東洋医学では、秋は肺が弱り気持ちが沈みやすい季節と考えます。不調を「怠け」ではなく「季節と体調の揺らぎ」として捉えることで、責めない関わり方がしやすくなり、食事や睡眠など学生自身が取り組めるセルフケアも伝えやすくなります。

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猛暑日の家内と、白湯を一杯——七月四日の養生日記

朝、寝室のカーテンを開けると、もう蝉が鳴いていました。まだ六時前だというのに、外の空気はすでに湿った熱を含んでいて、今日もまた三十五度を超えるのだろうと覚悟します。家内の脳卒中後疼痛(CPSP)は、夏になると独特の重さを帯びます。冷房で冷やしすぎれば痛みが強くなり、かといって暑さで発汗しすぎれば消耗して寝込んでしまう。「夏の養生」という言葉を、私は毎年七月に、体で覚え直しています。

きのうの晩、家内が「胸のあたりがざわざわして眠れない」と言いました。心電図の異常ではありません。東洋医学でいう「心(しん)」が、夏の熱に炙られてざわつくときの、あの独特の落ち着かなさです。私は台所へ行き、鍋にゆっくり水を沸かし、白湯を一杯淹れて持っていきました。


冷たいものが欲しい季節に、あえて白湯を淹れる理由

西洋医学の視点で言えば、夏の不調の多くは「脱水」と「熱中症」で説明されます。だから水分と塩分をこまめに、冷たい飲み物で体温を下げましょう、というのが常識です。もちろんそれは正しい。実際、家内の主治医からも「冷たいスポーツドリンクを常備しておいて」と何度も言われました。

けれど私は、それだけでは足りないと感じています。冷房の効いた部屋で、氷入りの麦茶をがぶ飲みして、それでも夕方になるとぐったりしてしまう——そういう夏の疲れは、水を「入れた量」だけの問題ではないのです。入れた水を、体がちゃんと「巡らせる力」の問題なのだと、神山道元先生の本を読んでから、私はそう考えるようになりました。


東洋医学が言う「心」を守り、「気陰」を補うということ

七月の養生の主役は「心(しん)」です。ここでいう心は心臓そのものではなく、血の巡りと精神活動をあわせて司る臓、いわば体の司令塔のような存在だと神山先生は教えてくれます。夏の暑さ(暑邪)は真っ先にこの心を痛めつけます。心が疲れると、動悸、寝つきの悪さ、いらいら、そして家内のような「胸のざわざわ感」として現れます。

さらに、汗をかくということは、水分だけでなく「気(き、体を動かすエネルギー)」と「陰(いん、体を潤す水分と血)」を一緒に外へ出してしまうことでもあります。これを「気陰両虚(きいんりょうきょ、エネルギーも潤いも足りない状態)」といいます。冷たい飲み物は入り口では気持ちよくても、胃を冷やして吸収を妨げ、結果として「気陰」を補えないまま体を消耗させてしまう。だから私は、夏こそ温かい白湯を淹れるのです。胃腸をゆるめて、水を体の隅々まで運べる状態にしてから、次の一杯を渡す。それが我が家の夏のルーティンになりました。


我が家の「夏の三点セット」——今日から真似できる養生

家内の枕元にはいつも三つのものを置いています。まず、蓋つきのポットに入れた白湯。四十度くらい、赤ちゃんのミルクより少しぬるい温度が、夏の胃には一番やさしい。二つ目は、少量の梅干し。塩気と酸味は、東洋医学では「収斂(しゅうれん)」といって、外に漏れ出しやすい気陰を体の内側に引き戻す働きがあるとされます。三つ目は、菊花(きくか)と麦門冬(ばくもんどう)を軽く煎じたお茶。心の熱を冷ましつつ、潤いを補う組み合わせで、神山先生が「夏の疲れがどうにも抜けない人へ」と教えてくれた処方の考え方を、家庭で真似したものです。

日中はできるだけ冷房を弱めにして、代わりに扇風機で風を動かします。阿久沢先生の受け売りですが、体表を風がなでるだけでも、皮膚の熱がふっと逃げていく感覚があります。そして夕方、家内の背中を私が手で温めながら、ゆっくり深呼吸を三分。心の高ぶりを鎮めるには、外から冷やすより、呼吸で内側から降ろすほうが早いのです。


「治す」のではなく、「今日を越える」

家内の痛みが、この養生で消えるわけではありません。CPSPはそういう病気ではないと、私はもう受け入れています。けれど「今日一日をなんとか越えられた」という夜がひとつ増えることは、確かに私たちの一年を変えていきます。夏の養生とは、心を守り、気陰を補い、無理に涼を取りすぎない——ただそれだけのことを、毎日ていねいに繰り返すことなのだと、七月四日の朝、白湯の湯気を見ながらまた思いました。乗り越えられない試練はない、と私が言えるのは、こういう小さな朝を家内と重ねてきたからです。


※本記事は東洋医学の考えに基づく養生の知恵を紹介するものであり、医療行為の代替を推奨するものではありません。症状がある方は必ず医療機関を受診してください。


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梅雨入り前、身体は雨を知っている——脾を整える私の一週間

五月の下旬、ベランダに出ると、空気が少し粘っこくなったのを感じます。まだ梅雨入り前のはずなのに、朝起きると瞼が重く、足のふくらはぎがむくんだまま。歯ブラシをくわえながら鏡を見て、「あ、舌の縁にギザギザ(歯痕)がついている」と気づきました。

これは、私が「梅雨の前触れ」を毎年身体で受け取るときの、最初のサインです。今週は、その身体の声に耳を澄ませながら、脾(ひ)を整える養生を続けてみました。今日はその一週間を、日記のように書いてみたいと思います。

月曜の朝——「だるい」のはサボりではなかった

家内の介護をしていると、自分の体調の崩れは、つい後回しになります。月曜の朝、いつものように白湯を沸かしながら、ふと足が重いことに気づきました。階段の上り下りが、いつもより一拍遅い。

西洋医学の友人に話せば、「気圧の変化で自律神経が乱れているんですよ」と言われるでしょう。実際、低気圧の前は副交感神経が優位になり、血管が拡張して、頭痛やだるさが出やすい——そう説明されます。気象病、天気痛、という言葉も最近よく耳にします。

それは確かに、現代医学の正しい説明だと思います。けれど、毎年この時季、私が同じ身体の声を聞くのには、もう少し古くからの理屈があるはずだ——そう思うようになったのは、神山先生に出会ってからでした。

視点の転換——脾は湿を嫌う、という古い知恵

東洋医学では、梅雨前から夏にかけての季節を「長夏(ちょうか)」と呼び、五臓のうちの「脾」が最も影響を受けると考えます。脾は、現代でいう脾臓ではなく、もっと広い意味での「消化吸収のシステム」を指します。食べたもの・飲んだものから気血を作り出し、水分の代謝を司る——いわば身体の中の「炊事係」です。

この脾には、ひとつ大きな弱点があります。「湿を嫌う」のです。

湿邪(しつじゃ)——身体の外から、あるいは内側から溜まる余分な水分は、脾の働きを真っ先に鈍らせます。脾が弱ると、水を捌(さば)けなくなる。捌けないから、もっと湿が溜まる。この悪循環が、梅雨前のあのだるさ、むくみ、食欲不振、頭が霧の中にいるようなぼんやり感の正体だと、神山先生は教えてくれました。

舌の縁の歯痕は、舌がむくんで歯に押し付けられた痕。つまり、身体の中に水が溢れているサインです。私の月曜の朝の鏡は、確かに「脾が疲れています」と告げていたわけです。

私の一週間の養生——今日からできる、小さな三つ

今週、私が意識して続けてみたのは、特別なことではありません。けれど、続けてみると確かに、金曜の朝には足のむくみが軽くなっていました。三つだけ書いておきます。

ひとつ目、朝の白湯に、生姜を一片。冷えた身体に冷たい飲み物を流し込むと、脾は一気に縮こまります。白湯をすするだけでも違いますが、薄切りの生姜を一枚浮かべると、ほんのり辛味が立ち上がって、胃のあたりがじんわり温まるのが分かります。生姜は性が「温」で、脾胃を温める代表的な食材です。

ふたつ目、生もの・冷たいものを、今週はお休み。刺身もアイスコーヒーも美味しいのですが、湿邪のシーズンに脾を冷やすと、てきめんに身体が重くなります。代わりに、温かい味噌汁の具を増やしました。大根、人参、長芋、椎茸——根菜と芋類は、脾を補う「補気健脾」の食材です。

みっつ目、夜、ふくらはぎを下から上へさする。ベッドに入る前、足首から膝の裏まで、両手で五回ずつ。リンパマッサージとも違う、ただ「水を上に戻してあげる」つもりの、ゆっくりした手の動きです。翌朝のむくみが、明らかに違いました。

まとめ——「治す」のではなく、「先回りする」

土曜の今朝、もう一度鏡を見たら、舌の歯痕は少しだけ薄くなっていました。完全に消えたわけではありません。でも、それでいいのだと思います。

養生は、身体を「治す」ことではなく、季節の変わり目に「先回りして整える」こと。梅雨が来る前に、雨を受け止められるだけの脾を準備しておく——そう考えると、毎朝の白湯一杯にも、味噌汁の根菜一切れにも、意味が宿ってくる気がします。

来週は雨予報。けれど、もう少しだけ、自分の身体と仲良くなれそうな気がしています。


※本記事は東洋医学の考えに基づく養生の知恵を紹介するものであり、医療行為の代替を推奨するものではありません。症状がある方は必ず医療機関を受診してください。

タンパク質、鉄、マグネシウム……足す前に、引く。——ファスティングから始める養生問答

家内が倒れ、帰国して、無職を続けて、何故かナポリピッツアの店を始めた頃の話。
ナポリで食べたピッツアのバターのような芳醇な香り、鼻に抜ける香ばしい香り、舌が感じるほんのりとした甘さ、弾けるような生地、外側はサクサクなのに中はもっちりとしている、でも軽くて胃にもたれない。
よくあるアメリカンピザは、甘さのために砂糖を加え、リッチさのためにバターを加え、生クリームを加えることもある。
でも、ナポリピッツアのあの味や香りにはならずに、ジャンキーなアーティフィシャルなものになる。
あっという間にブームが去った生食パンと似ている。
ナポリピッツアの生地には、小麦粉、塩、酵母、水しか使わない。
苦しみ抜いて、発酵と熟成の組み合わせで掴んだあの味と香りは、足し算の生地を石窯で焼いても得られない。
料理の足し算と引き算の違いを思い知った経験です。

「タンパク質が体にいい」「鉄分を摂りなさい」「マグネシウムは絶対だ」——テレビをつけても、SNSを開いても、雑誌をめくっても、現代人は毎日、何かを「足しなさい」と言われ続けています。でも本当に、私たちの身体は、それほど「足りていない」のでしょうか。今日は、サプリ棚の前で立ち止まってしまった方からのご相談に、養生問答の形でお答えしていきます。

Q1. タンパク質、鉄、マグネシウム……何を信じればいいのか、もう分からなくなってきました

A. その疲れ、よく分かります。情報を追えば追うほど、「これも足りない、あれも足りない、自分の食事はめちゃくちゃだ」と、罪悪感ばかりが積み重なっていく。気がつけば棚の上には、プロテイン、鉄、マグネシウム、ビタミンD、亜鉛、オメガ3——お薬のような景色が広がっていませんか。

ここで一度、深呼吸して立ち止まってみましょう。本当に、私たちは「足りていない」のでしょうか。むしろ現代人の身体の中では、何かが「多すぎる」のではないでしょうか——東洋医学はずっと、その問いを大切にしてきました。

Q2. 西洋栄養学では「不足」が問題と教わります。それは間違いなのですか?

A. いいえ、間違いではありません。本当に欠乏症がある方——月経が重い女性の鉄欠乏、菜食に偏った方のビタミンB12不足、日光に当たらない生活のビタミンD不足など——にとって、補うことは大切な医療です。

ただ、ここで一度考えたいのは、「平均的に普通に食べている人」までもが、毎日サプリで補わなければいけないのか、ということです。西洋栄養学は、足りない栄養素を一つずつ数値で測り、不足分を埋める「足し算」の考え方を得意とします。それはとても強力な視点ですが、その物差しだけで身体を眺めると、「いつも何かが足りていない自分」しか見えなくなってしまいます。

人間の身体は、入ってきたものを処理し、不要なものを出して、はじめて成り立っています。「入れる」だけを見て、「出す」「巡らせる」を見ない——その偏りこそが、現代の不調を生み出しているのではないでしょうか。

Q3. 東洋医学では、なぜ「足し算」より「引き算」を先にすすめるのですか?

A. 東洋医学では、不調を大きく「虚(きょ:不足)」と「実(じつ:過剰・滞り)」の2つに分けて見ます。たしかに虚もあるのですが、現代人にとくに多いのは、実は「実」のほう——食べすぎ、糖の摂りすぎ、脂の摂りすぎ、ストレスの溜めすぎ、情報の浴びすぎ、です。

身体は「気・血・水(き・けつ・すい)」のめぐりで成り立っています。入ってくる量に対して、めぐらせる力・排出する力が追いつかないと、滞った気血水が「痰湿(たんしつ)」や「瘀血(おけつ)」となって、身体のあちこちに溜まっていきます。重だるさ、むくみ、吹き出物、便秘、頭重感、なんとなくの不調——その多くは、この「滞り」が下地になっています。

そこへさらに、プロテインを足し、サプリを足し、栄養ドリンクを足したらどうなるでしょうか。物流センターが渋滞しているところに、トラックだけ増便するようなものです。まず必要なのは、渋滞をほどくこと——つまり、引くことなのです。

Q4. では、どうやって「引く」のですか?ファスティングのやり方を教えてください

A. いきなり何日も食べない厳しい断食は、かえって身体を傷めます。おすすめは、まず**「半日ファスティング」**から。胃腸を約16時間お休みさせる、もっとも安全な引き算です。

【1】前日の夕食を、軽く、早めに 就寝の3時間前までに食べ終える。揚げ物・甘いもの・お酒はお休みし、お粥・お味噌汁・蒸し野菜・煮魚などに切り替えます。

【2】翌朝は食事を抜き、白湯で過ごす 起きたら白湯を一杯。午前中は、白湯・湯ざまし・ノンカフェインの番茶などをこまめに。胃腸を「空(から)」にして、お休みさせてあげる時間です。

【3】お昼から、少しずつ戻す 最初の一口は、お味噌汁や梅干しの白湯から。30分ほど空けて、お粥や柔らかいごはんへ。普段の倍くらい、よく噛むことを意識します。

これを週に1〜2回から始めて、身体の声を聞いてみてください。頭が冴える、お通じが整う、肌がやわらぐ——多くの方が、こうした変化に気づかれます。ただし、低血糖になりやすい方・痩せすぎの方・妊娠中の方・服薬中の方は、必ず主治医にご相談ください。

Q5. ファスティングのあとは、何を補えばよいのでしょう?

A. せっかく引き算で空いたところに、もう一度「サプリで足し算」をしては元の木阿弥です。回復食におすすめなのは、季節の野菜・発酵食品・お味噌汁・雑穀ごはん——身体が長年つきあってきた「日常のもの」を、少量ずつ、よく噛んでいただくこと。

そして、そこでもう一度、身体の声を聞いてみてください。「あ、最近こういう味を欲していなかったな」「鉄が足りないと思いこんでいたけど、ただ食べすぎて、めぐっていなかっただけかも」。引き算をした後の身体は、自分に本当に必要なものを、ちゃんと教えてくれます。サプリやプロテインを使うのは、それからでも遅くありません。

まとめ:足す前に、引く。

「タンパク質を摂れ、鉄を摂れ、マグネシウムは絶対だ」——その情報の波に飲まれそうになったら、いちど立ち止まってください。現代の身体は、足りないより、多すぎることのほうが、ずっと多いのです。

不調を「治す」のではなく、めぐりを「整える」。整えるためには、まず引く。引いて空いたところに、本当に必要なものだけが、すっと収まっていきます。今日の夜、夕食をいつもより少し軽く——そんな小さな引き算が、明日の身体を変える最初の一歩になります。


※本記事は東洋医学の考えに基づく養生の知恵を紹介するものであり、医療行為の代替を推奨するものではありません。糖尿病・低血糖症・摂食障害などの持病がある方、妊娠中・授乳中の方、服薬中の方がファスティングを行う際は、必ず主治医にご相談ください。症状がある方は必ず医療機関を受診してください。

足の裏が痛い・芍薬甘草湯が効かない方へ——中医学が見る「腎」との深い関係

「挫いた覚えもないのに、朝の一歩が踏み出せないほど足の裏が痛い」「整形外科でレントゲンを撮ったけれど異常はないと言われた」「処方された芍薬甘草湯を飲むとその場はラクになるけれど、しばらくするとまた同じ場所がうずく」——こんな経験はありませんか。先日、当ブログの問答コーナーにも、まさにそんなお悩みが届きました。原因不明と言われる足底の痛み、そして「効くと聞いて飲んだ漢方が、思ったほど効いてくれない」というもどかしさ。今日はこの悩みを切り口に、なぜ薬を飲んでも痛みが戻ってくるのか、その理由を東洋医学の視点から一緒に考えてみたいと思います。

整形外科で芍薬甘草湯が処方される理由

整形外科で足裏の痛みを訴えると、まず行われるのはレントゲン検査と問診です。骨折や明らかな炎症がなければ、「足底筋膜炎」「種子骨炎」、あるいは「加齢性の変化」と説明され、消炎鎮痛剤や、筋肉のけいれんを抑える芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)が処方されることが多いでしょう。

芍薬甘草湯は、こむら返りや筋肉の急な痛みに対しては確かに即効性のある優れた処方です。私自身、夜中のふくらはぎのつりには何度も助けられてきました。ただ、足底の慢性的な痛みに対しては、飲んだその時はやわらいでも、しばらくするとまた同じ場所がうずき出す——そう感じている方が、実は少なくないのです。なぜでしょうか。

なぜ芍薬甘草湯では「対症療法」になってしまうのか

神山先生に伺うと、これは「ものさし」の問題だと言われます。芍薬甘草湯は、筋肉の異常な緊張という「症状」をやわらげるための処方で、いわば痛みの“火”を消す消火器のようなもの。けれど、なぜ何度も同じ場所に火が出るのか、その“燃料”には触れない。だから、しばらくするとまた燃え出してしまう。これがいわゆる対症療法の限界です。

中医学では、足の裏、とくにかかとや土踏まずの慢性的な痛みを、多くの場合「腎虚(じんきょ)」のサインと捉えます。「腎は骨を主(つかさど)り、その華(はな)は髪、その通ずるところは耳と踵(かかと)」——腎は西洋医学の腎臓とは違い、生命力の貯金箱のような概念です。40代を過ぎる頃から少しずつ目減りし、立ち仕事、慢性的な疲労、冷え、過労、睡眠不足などで早く減ります。この“貯金”が減ると、骨を養い潤す力が落ち、かかとや足底にじわじわと痛みが出てきます。

さらに現代の食生活——甘いもの、乳製品、揚げ物、冷たい飲み物——は体内に「湿熱(しつねつ)」をため込みます。湿と熱は重い邪気なので、身体の一番下、つまり足の裏に降り、そこで滞って痛みを増幅させます。芍薬甘草湯はこの“燃料”——腎虚や湿熱——にはアプローチしないため、どうしても対症療法に留まってしまうのです。

足裏の痛みに、今日からできる養生法

そこで、ご家庭で今日から始められる「燃料を減らす養生」を四つご紹介します。

1. 湧泉(ゆうせん)のツボ刺激 足裏の中央よりやや上、足の指を曲げると一番くぼむ場所。ここはまさに腎経の入口です。お風呂上がりに親指で三十秒、左右両方をじんわり押すだけでも、下に滞った気の流れが変わります。神山先生に教わった裏ワザとして、クローブ(丁香)の粒を絆創膏で湧泉に貼り付けて寝るという方法も。膝痛に劇的に効いたという例があるそうです。
私はいつも、キッチンペーパーを折って黒酢(静置発酵で作られた黒酢の方が効果は大きいです)を湿らせて湧泉の辺りに当ててラップでぐるぐる巻きにして湿布します。
包帯でも良いのですが、お酢の匂いは強烈なのでラップで蓋をしています。

Sole of a foot with Japanese acupressure points marked, including Yongquan point

2. 黒酢の足浴 洗面器に少し熱めのお湯と、黒酢を大さじ二、三杯。十五〜二十分浸かるだけで血流が改善し、湿熱を散らします。テレビを見ながらでもどうぞ。

3.「黒い食材」を意識する 中医学では黒い色の食べ物が腎を補うとされます。黒豆、黒ごま、黒きくらげ、くるみ。ごはんに黒ごまをふる、味噌汁に黒きくらげを入れる——それくらいの小さなことから。骨つき鶏を弱火で三十分煮込んだスープも、腎精をしっかり補ってくれます。

4. 避けたほうがいいもの 冷たい飲み物、アイスクリーム、生野菜サラダ、過度な運動。とくに「身体に良いから」とサラダばかり食べている方は、知らず知らず脾と腎を冷やしているかもしれません。今は休養が必要な時期だと考えてください。

痛みが始まってから36時間は、固形物を体に入れないことも重要です。
腎臓を休めてあげること、壊れた細胞の自己修復を促すことで、上記4項目の効果が出やすくなります。

二週間続けても痛みが引かない場合は、八味地黄丸(はちみじおうがん)など腎陽を補う処方が選択肢に入ります。ただし、まずは生活の見直しから。漢方は「証(しょう)」に合わせて選ぶものなので、本格的に飲むなら漢方に詳しい医師に相談されるのがよいでしょう。

まとめ——「治す」ではなく「整える」へ

痛みは、消すべき敵ではなく、身体からの便りです。芍薬甘草湯がいまひとつ効かないというのは、そもそも筋肉だけの問題ではなく、「腎の貯金が減ってきていますよ」というお知らせなのかもしれません。対症療法はもちろん大切ですが、それと並行して、毎日の食事と暮らし方を少しずつ整えていく。「治す」のではなく「整える」——その積み重ねが、来年の足裏を、五年後のあなた自身の歩みを、確かに変えていきます。


※本記事は東洋医学の考えに基づく養生の知恵を紹介するものであり、医療行為の代替を推奨するものではありません。症状がある方は必ず医療機関を受診してください。現在の治療を自己判断で中断せず、必ず主治医にもご相談ください。

梅雨入り前の朝、身体が重い——脾の声を聞いた一週間の養生日記

朝、布団から起き上がるのが、ここ数日ずいぶん億劫です。寝起きにふくらはぎを揉むと、いつもより張っている。鏡の前で舌を出してみたら、白い苔がべったりと乗っていました。「ああ、また始まったな」と思います。五月の半ばを過ぎ、暦の上ではまだ初夏ですが、家の壁紙がしっとりと湿気を含み始め、洗濯物の乾きがどことなく鈍くなる頃。私の身体は毎年、梅雨が来るより少し早く、その気配を察知します。今年も、身体が「湿気のシーズンが始まりますよ」と、小さな声で教えてくれているようです。

こういう時、西洋医学的に考えれば「気圧の変化で自律神経が乱れた」「気象病」というところでしょうか。実際、雨が降る前に頭痛がしたり、古傷が痛むことを「雨が降る前に膝が騒ぐ」と昔から言いますし、低気圧と体調不良の関係は研究も進んでいます。対処としては、十分な睡眠、適度な運動、市販の鎮痛薬や乗り物酔いの薬。クリニックでは「五苓散(ごれいさん)」という漢方を勧められることもあります。理屈は通っていますし、私もかつてはそれで乗り切ろうとしていました。ただ、毎年同じ時期に同じ重だるさが来るというのは、もう少し根の深い話のような気がしているのです。

重だるさの正体は「湿邪」と「脾」の物語

東洋医学では、この季節の不調を「湿邪(しつじゃ)」のしわざと考えます。湿邪——文字通り、湿気が邪気となって身体に入り込んでくるイメージです。そして、湿邪にもっとも弱いのが「脾(ひ)」。脾は西洋医学でいう脾臓とは少し違って、消化吸収全般を司る働きを束ねた概念で、いわば「身体の中の調理場」です。

脾が元気なときは、食べたものを気(エネルギー)・血(栄養)・水(潤い)にきちんと変えてくれます。ところが、外の湿気と、内側の湿気——冷たい飲み物、甘いお菓子、生もの——が脾を二方向から攻めると、調理場の火が弱くなり、水分代謝が滞ります。それが、朝の重だるさ、ふくらはぎの張り、舌にべったり乗る白い苔、頭がぼんやりする感じ、いわゆる「湿困脾(しっこんひ)」の状態です。神山先生の言葉を借りれば「脾は乾燥を好み、湿を嫌う」。だからこそ、梅雨が本格的に来る前のいま、脾を先取りで整えておく養生がよく効くのです。家内のCPSP(脳卒中後疼痛)の痛みも、湿度が上がるとてきめんに強くなる。だから我が家にとって梅雨前は、毎年けっこう真剣な準備期間でもあります。

今週、私が試した三つの小さなこと

そこで今週、私が試したのは、本当にささやかな三つの習慣です。

一つ目は、朝のすりおろし生姜湯。冷蔵庫から出した生姜を親指の先ほど擦って、お湯を注ぎ、はちみつを小さじ一杯。これを起きてすぐの一杯にしました。冷えた身体の調理場に、まず火を入れるイメージです。生姜は性味でいえば辛・温、帰経は脾・胃・肺。脾の調理場を温めながら、肺の入口の湿気を散らしてくれます。

二つ目は、夜の足湯。洗面器に少し熱めのお湯を張って、十分だけ足首まで浸す。テレビを見ながらでも、本を読みながらでもいい。湿邪は下から登ってくると考えられているので、足首から温めて湿を散らすのは、理にかなっています。

三つ目は、夕飯の一番最初に味噌汁を一杯飲むこと。具は、はとむぎ、しいたけ、長ねぎを基本にしています。はとむぎ(薏苡仁・よくいにん)は脾の余分な水を捌き、しいたけは気を補い、長ねぎは中を温める。難しい料理ではありません。胃を冷たいサラダや生ビールでびっくりさせる前に、まず温かい味噌汁で調理場の火を起こす——それだけのことです。

三日目には、朝の重だるさが半分くらいに減っていました。家内も「今年は身体が軽い気がする」と笑っています。

まとめ——「治す」のではなく「便りに応える」

身体は、季節の変わり目に必ず合図を送ってきます。それを「治す」べき症状として叩こうとすると、また同じ季節に同じ症状がやってきます。でも、合図として受け取り、生活をほんの少し「整える」と、来年はもう少し楽に梅雨を越せるかもしれません。重だるい朝は、悪い知らせではなく、脾からの便りです。便りには、便りで応えればいい。今日もお湯を沸かして、生姜を擦るところから一日を始めます。


※本記事は東洋医学の考えに基づく養生の知恵を紹介するものであり、医療行為の代替を推奨するものではありません。症状がある方は必ず医療機関を受診してください。

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