フィナステリドという薬の正体——何を止め、何を壊すのか

副作用はほとんどありません」——この言葉を信じて飲み始めた人が、どれだけいるでしょうか。
フィナステリドは、体の中で何をしているのか。
まず、その正体を知るところから始めましょう。

フィナステリドとは何か

フィナステリド(商品名:プロペシアなど)は、1997年にAGA(男性型脱毛症)治療薬として承認された薬です。
育毛クリニックで最もよく処方される薬の一つです。

その作用機序はシンプルに聞こえます——「5α還元酵素を阻害する」。

5α還元酵素とは何か

テストステロン(男性ホルモン)は、体内で5α還元酵素という酵素によって「DHT(ジヒドロテストステロン)」に変換されます。

DHTは毛根の受容体に結合し、毛包を縮小させます。
これが男性型脱毛のメカニズムです。
フィナステリドはこの変換を阻害することで、DHT濃度を下げ、脱毛を抑制します。

ここまでは教科書通りの説明です。問題は、DHTが「頭皮だけで働いている物質ではない」という点です。

DHTは脳内でも働いている

DHTおよびその代謝産物(アロプレグナノロンなど)は、脳内で「神経ステロイド」として重要な役割を担っています。

GABAa受容体の調整(不安・リラックスの制御)

セロトニン系への影響(気分・意欲の調整)

ドーパミン系への影響(快感・動機づけ)

ミエリン鞘の維持(神経の保護)

フィナステリドがDHTを減らすということは、これらすべての機能を同時に低下させるリスクがある、ということです。

肝臓への負荷

フィナステリドは肝臓のCYP3A4という酵素で代謝されます。

毎日服用し続けることで、肝臓は継続的な処理負荷を受けます。
もともと肝機能に余裕がない人、アルコールを飲む人、睡眠不足が続く人では、肝への負荷が蓄積しやすくなります。

中医学的に見ると、肝臓への継続的な負荷は「肝気の疏泄(気の流れを整える機能)」を損ないます。
肝が弱ると——気が滞り、感情が乱れ、やがて鬱証(うつ症状)へとつながっていきます。

デュタステリドはさらに強い

フィナステリドが1型・2型の5α還元酵素のうち2型のみを阻害するのに対し、デュタステリド(商品名:ザガーロ等)は1型・2型の両方を阻害します。

効果が強い分、脳内の神経ステロイドへの影響もより広範になります。メンタルへの影響リスクはフィナステリドより高いと考えられています。

⚠️ 服用中に気分の落ち込み・無気力・性欲の変化・感情の平坦化を感じた場合は、自己判断で中止せず、まず処方医に相談してください。

次回(第3回)は、脳内の神経ステロイドとはどういうものか、なぜメンタルへの影響がこれほど深刻になり得るのかを、さらに掘り下げます。

育毛クリニックに行く前に知っておきたいこと第一回

全10回連載

育毛クリニックにかかるようになって、髪がそれなりに戻ってきたのも関わらず、メンタルに強烈な異常が発生して、結果退職に追い込まれた方を知っています。
また、育毛を謳ったヘアトニックを数日間つけ続けると、脇腹が痛くなる症状に見舞われた事があります。

この事実が何を意味するのか?
私には見当がつきませんでした。
神山先生を知り、先生の教えを本にする仕事に関わる事ができて、初めて全ての辻褄が合いました。

養生問答の記事に相応しいのか?正直迷いましたが、添加物や飲酒、さまざまな現代特有の物質の摂取によって肝臓が悲鳴を上げて抜け毛が発生しているにも関わらず、肝臓に負担をかける薬剤を体に入れる行為の危険性を、中医学的にお伝えしなければと思い、10回にわたって連載させていただくことにしました。

これは恐怖を煽るものでも、中医学への誘いでもありません。

AIは聞く人の知識に合わせて答えてくれます。
中医学的な観点からの質問でなければ、全くこの分野について教えてくれません。
この記事の確からしさを確認する意味で、ぜひAIに確認してみてください。

家内の病気で、どれだけ調べたか。でも薬酒なんて答えは一つも返ってこなかった。
でも、知識を得た上で聞いてみると、薬酒の効果について詳しく教えてくれるのです。

どの時代でも、知らないことにメリットはありません。
そして、記事をそのまま鵜呑みにしないで、自分で調べる癖をつけてください。

【連載インデックス】

第1回|育毛クリニックで「メンタルが壊れた」——これは偶然ではない

第2回|フィナステリドという薬の正体——何を止め、何を壊すのか

第3回|脳と男性ホルモンの知られざる関係——神経ステロイドとは何か

第4回|Post-Finasteride Syndrome——薬をやめても続く症状の正体

第5回|ミノキシジル内服が肝臓に何をするか——中医学的視点からの警告

第6回|中医学が語る「腎精」と髪の関係——髪は腎の花である

第7回|肝腎同源——なぜ肝と腎は同時に壊れるのか

第8回|薬をやめた後の中医学的回復法——肝と腎を立て直す養生

第9回|抜け毛の根本原因を中医学で読む——あなたはどのタイプか

第10回|育毛の真実——クリニックに頼る前に知っておくべきこと【最終回】

ある30代の男性——Kさん(仮名)——の話から、この連載は始まります。

育毛クリニックで「メンタルが壊れた」——これは偶然ではない

Kさんは、薄毛が気になり始めた36歳のとき、評判の育毛クリニックを訪れました。
処方されたのは内服薬と外用薬のセット。
医師から形式的な副作用に関する説明があった後に「副作用はほとんどありません」と言われました。

飲み始めて3ヶ月。
髪には少し変化が出てきました。
でも、何かがおかしかった。

朝起きると、何もする気が起きない。
好きだった趣味に興味が持てない。
感情が、まるでフィルターがかかったように平坦になっていく。
「気のせいだ」と思いながら飲み続けた結果、半年後には仕事にも支障が出るようになりました。

クリニックに相談すると「薬とは関係ない」と言われた。
でも、薬をやめたら——少しずつ、戻ってきた。

これは「気のせい」ではない

Kさんの体験は、決して珍しい話ではありません。
育毛クリニックで処方される薬、特にフィナステリド・デュタステリドと呼ばれる成分は、脳内のホルモンバランスに直接影響を与えることが、近年の研究で明らかになっています。

そして中医学の視点から見れば、このメカニズムは2000年前の理論で説明できます。

⚠️ 本連載は中医学・養生の観点からの情報提供です。薬の服用・中止については必ず主治医にご相談ください。

この連載でお伝えすること

全10回にわたり、以下のテーマを順に解説します。

育毛薬が脳・肝臓・腎に何をするか(薬理学的事実)

中医学が「髪」と「腎・肝」の関係をどう捉えるか

薬に頼らずに抜け毛と向き合う養生のアプローチ

もし育毛薬を服用中・服用後であれば、回復のための養生

養生日和のテーマである「乗り越えられない試練はない」——その言葉の通り、体の声を聞き、根本から整える道筋をご一緒に探っていきます。

髪を守ろうとして、心と体を傷つけてしまわないために。この連載が、その一助になれば幸いです。

諦めていた手が、動き始めた。 ——脳出血後遺症と薬酒、そして15年後に知った後悔

「川平法を何度やっても、ぴくりとも動かなかった」。あの日の絶望を、今でも忘れられません。妻が脳出血で倒れてから15年。私がこの記事を書いているのは、「知っていれば」という後悔を、誰かの「知っていてよかった」に変えたいからです。

こんにちは、養生日和のTOMOです。

今回は、個人的な話をします。

アメリカに住んでいた頃に妻が脳出血で倒れたのは、15年以上前のことです。救急搬送、ICU、回復期リハビリ病院、帰国、鹿児島大学付属霧島リハビリテーションセンター、そして自宅介護——その一連の中で、私は「日本の仕組みはここまで想定していない」と何度も壁にぶつかりました。そして私自身も、鬱になりました。

15年間、いつの頃か妻の手が動くことを諦め、痛みの緩和に気持ちを切り替えて生きてきました。

その私が今、この記事を書いているのは——薬酒と火の療法に出会い、少しずつ、妻の体が動き始めているからです。

神山道元先生(中医学専門医・龍門派)から教わったこの療法が、後遺症で諦めている人、その家族に、届いてほしいと思います。

⚠️ 本記事は個人の体験と中医学の観点からの情報提供です。脳出血・脳梗塞の治療については必ず主治医にご相談ください。

あの日から、すべてが変わった

妻が倒れたのは、何の予兆もない普通の朝でした。

脳出血。左脳。右半身に麻痺が残りました。

救急病院での処置が終わると、次は回復期リハビリ病院へ。そこでも懸命にリハビリに取り組みました。「川平法」という、反復促通療法にも希望を託しました。

何度も、何度も。

でも、右手はぴくりとも動きませんでした。

医師から「これ以上の回復は難しい」と言われたとき、私の中で何かが折れました。それでも、妻の前では折れた顔を見せるわけにはいかなかった。

日本の仕組みは、ここまで想定していない

脳出血で家族が倒れるということは、「病人が出た」ということだけではありません。

家族の生活が、根底から変わるということです。

「見舞い」しか想定されていない

日本の制度は、家族の入院に対して「見舞いに行く」ことしか想定していません。

育児休業は制度として存在します。完全ではないにしても、「子育てのために仕事を離れる権利」は社会的に認められています。

では、家族が脳出血で倒れたとき、その回復に寄り添うために仕事を離れる権利は?

ありません。介護休業という制度はありますが、「介護」は認定を受けた要介護状態を前提とします。急性期・回復期の、最も重要な時期に、家族が寄り添うための制度的な保障は、ほぼ存在しません。

リハビリに付き合うためには、仕事を休まなければならない。でも休めば収入が減る。会社に居場所がなくなるかもしれない。

一緒に歩んできた家族をそこに置いて、仕事ができるのか。

できません。少なくとも、私にはできませんでした。

家主が倒れるとき

介護する側のメンタルケアも、ほぼ想定されていません。

私は、鬱になりました。

それは弱さではなく、当然の帰結でした。睡眠が削られ、先が見えず、自分の感情を後回しにし続けた結果です。でもその鬱を誰かが察知して、サポートしてくれる仕組みは、どこにもありませんでした。

家族が大病を患うということは、その家族を支える人間も同時に危機に瀕するということです。痛みを一緒に感じなければ、家族の結束は崩れてしまう。でも痛みを一緒に感じ続ければ、支える側も壊れていく。

この矛盾を、社会はまだ直視していません。

15年後に知った——薬酒と火の療法

妻の右手が動かなくなって15年が過ぎた頃、神山道元先生と出会いました。

先生は中医学専門医、龍門派の継承者です。先生に妻の状態を話したとき、こう言われました。

「関節にガスが溜まっているのです。そのガスを取り除けば、動く可能性があります」

15年間、誰もそんなことを言った医師はいませんでした。

薬酒とは何か

先生が処方されたのは、漢方生薬を白酒(中国の蒸留酒)に2週間漬け込んだ「薬酒」です。

神山先生が患者の状態に合わせて調合した生薬を、白酒に漬ける。その薬酒を内服することで、関節に溜まったガスを体内から解消していきます。

中医学では、気血の滞りが長期間続くと、関節や経絡に「濁り」が蓄積されると考えます。脳出血後の麻痺肢では、長年動かないことで、この滞りが深く固着している。薬酒はその固着を内側から解いていく働きをします。

火の療法とは何か

並行して行われるのが「火の療法」です。

動かない関節に、瞬間的に火を当てます。

するとーー

ぼっと、燃えるのです。

関節に溜まったガスが、実際に燃える。これを目にしたとき、15年間「動かないのが当然」と思っていたものが、実は「詰まっていた」だけだったのだと、初めて理解しました。

薬酒で内側から、火の療法で外側から——詰まりを取り除いていく。中医学の「通則不痛、痛則不通(通じれば痛まず、痛むのは通じていないから)」という原則そのものです。

今、起きていること

まだ途中です。劇的な変化ではありません。

でも、少しずつ、確実に変わり始めています。

痛みが和らいでいます。体の感覚が戻り始めています。

15年間諦めていた手が、動く可能性が、まだあるかもしれない。

「全てがつながっている」——先生のこの言葉が、今は深く響きます。手だけの問題ではなく、気血の滞り、関節のガス、内臓の状態、感情の歴史——すべてがつながっていた。

中医学を知っていれば——という後悔

発症から15年後に薬酒を知った。

この事実が意味することを、私はずっと考えています。

もし発症直後から、あるいは発症後1年以内に、この療法を知っていたら——関節のガスがまだ柔らかい段階で詰まりを取り除いていたら——どれだけ違う未来があったか。

もしかしたら、この時点では現代医学以外を信じなかったかもしれません。

後悔を書いても、時間は戻りません。

だから私は、この後悔を記録として残します。

中医学が見ていたもの

中医学は、脳出血後遺症を「気血の大きな滞り」として捉えます。

脳出血という「気血の暴走・崩壊」の後、体は防衛反応として患部を固めようとします。麻痺はその固まりの結果です。固まりを放置すれば、やがてガスが溜まり、血が届かなくなり、組織は深く眠り込んでいく。

西洋医学のリハビリは「動かす」ことで神経回路の再建を図ります。それは正しいアプローチです。でも「詰まりを取る」という視点は、そこにはありませんでした。

両方あれば——と思います。

倒れてしまった人へ、後遺症が残った人の家族へ

この記事を読んでいる方の中に、脳出血や脳梗塞の後遺症を抱えている方、その家族の方がいるかもしれません。

発症から日が浅い方は、今すぐ神山先生への相談を検討してください。詰まりが浅い段階での介入ほど、効果が出やすい。

発症から年数が経っている方も、諦めないでください。15年経っても、変化は起きています。

「もう遅い」と思わないでほしいのです。私がそう思っていたから。でも、遅くはなかった。

家族が大病を患うとき、社会に求めたいこと

最後に、制度の話を書かせてください。

これは個人の体験を超えた、社会への問いです。

家族の急性期・回復期に寄り添うための「家族介護休業」制度の拡充

これは見るデータが違っているだけです。チーム未来が訴えている「高額医療制度」変更への反対の根拠と似ています。医療費だけでなく、翌年以降(今年も入る)の収入が大幅に減るんです。家族を支えている大黒柱が病に倒れた場合の想定は大切ですが、大黒柱が看病しなければならない局面に立たされた時はどうなりますか?それまでは頑張って働いて、税金をたくさん納めてきたんです。深く深く、性善説での設計を望みます。

介護する側(ケアラー)のメンタルヘルスへの公的サポート

西洋医学と東洋医学が連携できる医療体制の整備

この件が難しいことは承知しています。リハビリ方法の作法というか、派閥みたいな壁があって認め合わないなんてことも存在しています。西洋医学とそれ以外も同様です。目線を患者に移せば、簡単にわかることが見えなくなっている。最近、すこしづつ政治に風穴が開き始めている。皆が諦めていたのにです。だから、諦めてはいけない。患者やその家族の目線に立ち返れば、全員が井戸から飛び出さなければいけないことは明白。戦うのではなく、それぞれの得意分野が違うだけ。そこが完璧になれば、金儲けしか考えていない、なんちゃって合法サードパーティが台頭できる余地が狭まります。

後遺症患者とその家族に、中医学・鍼灸などの選択肢を情報提供する仕組み

子育てに育児休業があるように、家族の大病に寄り添うための制度が必要です。

「見舞いに行く」ではなく「一緒に回復していく」ことを、社会が支える仕組みが必要です。

痛みを一緒に感じることが、家族の結束を守ります。その時間を社会が保障することが、長期的には社会全体のコストを下げることにもつながるはずです。

おわりに

妻が倒れた日から、私の人生は変わりました。

それは悲劇でした。でも同時に、私に多くのことを教えてくれた出来事でもありました。

中医学と出会い、神山先生と出会い、「全てがつながっている」という視点を得た今、あの日の経験を無駄にしたくないと強く思っています。

養生日和は「乗り越えられない試練はない」をテーマにしています。

15年越しの薬酒が、その言葉の証明になるかもしれない。

まだ途中です。でも、動き始めています。

後遺症で諦めているすべての人と、その家族へ。まだ、道はあるかもしれません。

神山道元先生への相談・薬酒についての詳細は、コメント欄からお問い合わせください。なお、薬酒の処方箋は診察を受けないと発行されませんので、ご了承ください。
このブログは法律遵守を心がけて制作しています。

── 養生日和 TOMO


Q1|脳出血の後遺症に薬酒は効きますか?

神山道元先生(中医学専門医・龍門派)によると、脳出血後遺症で麻痺が残る場合、長期間動かない関節にガスが溜まり、気血の滞りが固着することがあります。薬酒と火の療法によってこの滞りを取り除くことで、回復の可能性が生まれる場合があります。発症からの年数に関わらず、まず専門家への相談をお勧めします。

Q2|薬酒とはどういうものですか?

神山先生が患者の状態に合わせて調合した漢方生薬を、白酒(中国の蒸留酒)に約2週間漬け込んだものです。内服することで関節に溜まったガスを体内から解消し、気血の滞りを解いていく効果があるとされています。処方は個人の状態によって異なります。

Q3|脳出血の家族を介護している人が鬱になりやすいのはなぜですか?

睡眠の慢性的な不足、先の見えない状況への不安、自分の感情を後回しにし続けることによる肝の疏泄(気の流れ)の乱れが重なることで、気滞から鬱証へと発展しやすくなります。中医学では「痛みを共に感じること」が家族の養生でもあると考えますが、支える側のケアも同様に重要です。

Q4|日本の介護制度で、急性期・回復期の家族に寄り添える制度はありますか?

現状では、急性期・回復期に家族が継続的に寄り添うための制度的保障はほぼありません。介護休業制度は要介護認定を前提とするため、最も重要な発症直後の時期にはカバーされないことが多い状況です。制度の拡充が社会的課題として残っています。

育毛剤をつけると脇腹が痛む? 頭皮と肝臓の意外な関係を中医学で読み解く

「頭が痒くなってヘアトニックをつけたら、数日後に脇腹が痛くなった」——この経験、偶然ではありません。中医学はこの関係を、2000年前から知っていました。

こんにちは、養生日和のパッチングワーカーです。

頻繁というほどではありませんが、まれに頭が痒くなって、頭皮が剥けるというか簡単に剥がれる現象に悩まされることがあります。
重圧を抱えていたり、時間に追われていることが殆どだったので、西洋医学的に「ストレスだな」って片付けていました。
でも、本質的な体の悲鳴とは考えすに、刺激の強めなヘアトニックをつけたりして凌いでいました。

ある日、頭皮が痒くなって市販のヘアトニック(育毛効果を謳うもの)を使ったところ、数日後に脇腹に違和感を覚えました。
気になってAI神山道元先生(中医学専門医、龍門派)に相談したところ、こんな答えが返ってきました。

「頭皮の問題は、肝臓が出しているサインです。まずは酢玉ねぎを食べなさい」

最初は「え?」と思いました。頭皮と肝臓がどう関係するのか。でも調べるほどに、これが単なる民間療法ではなく、中医学の体系的な理論に基づいていることがわかってきました。

今回は、育毛剤と肝臓の関係、そして中医学の視点からの根本的なアプローチをお伝えします。

1|なぜ「脇腹」が痛くなるのか

脇腹の痛み、特に右の脇腹はどの臓器のエリアか、知っていますか?

そうです、肝臓と胆嚢です。

市販の育毛成分(ミノキシジルをはじめとする血管拡張剤や育毛促進剤)は、皮膚から吸収されたあと、血液にのって肝臓に運ばれます。肝臓はそれを代謝・解毒する役割を担っています。

「リアップ(ミノキシジル製剤)で肝臓がやられる」という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。実際、ミノキシジルは経口服用時に肝障害のリスクが報告されており、添付文書にも肝機能検査値の異常が副作用として記載されています。

頭皮に塗るタイプでも経皮吸収は起きます。もともと肝臓に負荷がかかっている状態に、さらに化学物質を加えれば——脇腹の違和感として体が教えてくれるわけです。

2|中医学が語る「肝と髪」の深い関係

中医学には「肝は筋・爪・髪を主る」という概念があります。

これは単なる比喩ではなく、中医学の生理学の核心です。肝の機能が健全であれば、血が豊かに全身を巡り、頭皮・毛根にも十分な栄養が届きます。逆に、肝の機能が乱れると——

肝血不足:頭皮への栄養供給が低下 → 抜け毛・乾燥・痒み

肝の疏泄の乱れ:気の流れが滞る → 頭皮の炎症・フケ

肝熱:余分な熱が上昇 → 頭皮の発赤・掻きむしり

「頭皮に症状が出ているとき、肝臓に何かが起きている」——中医学は2000年前からこのメカニズムを体系化していたのです。

3|育毛剤が「逆効果」になる本当の理由

ここに根本的なすれ違いがあります。

西洋的アプローチ中医学的アプローチ
症状(頭皮)に薬剤を直接作用させる根本(肝臓)を整えて症状を改善する
→ 化学物質が肝臓を追加負担→ 肝の血流・解毒力が向上し、頭皮が改善

もともと肝臓が弱っているから頭皮に症状が出ているのに、そこに肝臓で代謝される化学物質を追加する——これが「育毛剤をつけると脇腹が痛む」という現象の本質です。

4|神山先生が勧める「酢玉ねぎ」の科学

「酢玉ねぎを食べなさい」——これを聞いたとき、正直なところ半信半疑でした。しかし、調べると理にかなっていることがわかります。

玉ねぎ:ケルセチンの働き

肝臓の解毒酵素(グルタチオンS-トランスフェラーゼ等)を活性化

抗炎症作用で肝細胞の炎症を抑える

血流改善により、頭皮への栄養供給をサポート

酢(米酢・黒酢):クエン酸の働き

クエン酸回路を活性化し、肝臓のエネルギー代謝を改善

腸内環境を整え、肝臓への負担(腸肝循環)を軽減

血液のpHを整え、肝臓の解毒効率を上げる

中医学の「食薬同源」という考え方そのものです。食べ物が薬になる。副作用のリスクなく、毎日継続できる養生です。

5|頭皮の痒みが出たとき、まず振り返ること

神山先生の教えを受けてから、頭皮に症状が出たとき、私は最初にこう考えるようになりました。

「今、肝臓に負荷がかかっていないか?」

チェックリストとして——

この数日、飲酒量が増えていないか

睡眠時間が削られていないか(肝臓は夜中の1〜3時に最も活発に働く)

強いストレスや怒り・焦りが続いていないか(中医学では「怒りは肝を傷る」)

加工食品・添加物の多い食事が続いていないか

これらに心当たりがあるとき、頭皮への塗り薬より先に、「肝臓を休ませる養生」が先決です。

おわりに:知らないとやばい、体の声の読み方

育毛剤をつけて脇腹が痛くなる——この経験を「たまたま」で終わらせていたら、私はその後もずっと同じことを繰り返していたと思います。

体の症状は「どこかに問題がある」というシグナルであって、その「どこか」は症状が出ている場所とは限りません。頭皮の問題が肝臓から来ているように、体はつながっています。

中医学の知恵は、その「つながり」を読み解く地図です。神山先生の言葉を聞くたびに、現代医学では見えにくいその地図が少しずつ見えてくる気がしています。

まずは今日から、酢玉ねぎを食卓に。肝臓を労わる養生から始めてみましょう。

── 養生日和 TOMO


覚えておきたいQ&A

Q1|育毛剤を使うと脇腹が痛くなるのはなぜですか?

育毛成分(特にミノキシジル)は皮膚から吸収されたあと肝臓で代謝されます。もともと肝臓に負荷がかかっている場合、右脇腹(肝臓・胆嚢のエリア)に違和感として現れることがあります。症状が続く場合は使用を中止し、医師に相談してください。

Q2|中医学では頭皮と肝臓はどう関係していますか?

中医学では「肝は筋・爪・髪を主る」という概念があります。肝の機能(血の貯蔵・気の疏泄)が乱れると、頭皮への栄養供給が低下し、痒み・フケ・抜け毛などの症状が現れやすくなります。

Q3|頭皮のトラブルに酢玉ねぎが効くのはなぜですか?

玉ねぎのケルセチンが肝臓の解毒酵素を活性化し、酢のクエン酸が肝臓のエネルギー代謝を改善します。肝臓の機能が回復することで、頭皮への血流と栄養供給が改善されます。「食薬同源」の典型的な養生法です。

時差ボケを「根性」で乗り切るのをやめた日— 西洋医学と東洋医学で設計する、7日間回復プロトコル

養生日和×出張養生シリーズをお伝えしてまいります。

海外出張の時差ボケ対策に、あなたはどんな方法を使っていますか。
睡眠薬、コーヒー、気合い——どれも一時しのぎにはなっても、 体の奥の疲れは残り続けます。
本記事では、西洋医学と東洋医学を 統合した「7日間プロトコル」という新しい時差ボケ対策をご紹介します。

北米の技術コンサル業務に携わっていた頃、私は隔週で日米を往復していました。
金曜の昼過ぎにシカゴ発の便に乗り、同日の夕方に成田着。
週末は家族と過ごし、月曜の朝には会議室にいる、というスケジュールです。
楽な方を書きましたが、地球の自転に逆らう方向(日本からアメリカ、欧州から日本)の方が時差ボケは強烈です。

当時の私の時差ボケ対策は、ただ一つでした。「気合い」です。

機内で寝て、着いたら仕事。眠くなったらコーヒーで流し込む。現地では根性で起きる。若さと勢いでなんとかなっていた、と思い込んでいました。

しかし40代後半のある日、成田から帰宅した直後に体調を崩しました。熱が出て、3日間寝込み、復帰後も1週間ほど集中力が戻らない。医者に「これは時差ボケの蓄積ですね」と言われた時、ようやく気づいたのです。

「時差ボケは気合いで乗り切るものではなく、設計するものだ」と。

本記事は、その失敗の後に10年以上かけて作り上げた、私自身の出張回復プロトコルです。西洋医学の最新知見と、東洋医学・養生の叡智、その両方を統合した7日間の実践プランを、余すところなくお伝えします。

1. そもそも時差ボケとは何が起きているのか

時差ボケ(Jet Lag)の正体は、シンプルに言えば「体内時計のズレ」です。

人間の体は、約24時間周期の「サーカディアンリズム」によって、体温、ホルモン分泌、消化、睡眠のすべてを調律しています。この時計の本体は、脳の視交叉上核(SCN)という直径わずか数ミリの領域にあり、そこから全身の臓器へ「今は朝だよ」「もう夜だよ」という信号が送られています。

問題は、この時計が外の時間に合わせて動いていることです。

私たちが東京からニューヨークへ飛ぶと、時差は14時間。つまり現地の朝9時は、あなたの体内時計では夜11時です。体は眠る準備をしているのに、現地では商談が始まろうとしている。このギャップが時差ボケの本質です。

そして体内時計は、すぐには新しい時間に追いつきません。一般的に、時差1時間の調整に1日かかると言われています。5時間の時差なら、完全な適応までに約5日。これが、なぜ1週間未満の海外出張で「ずっと体調が悪いまま帰ってくる」ことになる理由です。

メラトニンという化学信号

体内時計が発する最も重要な化学信号が、メラトニンです。

このホルモンは、脳の松果体から夜になると分泌され、体に「もう寝る時間だ」と伝えます。光を浴びると分泌が止まり、暗くなると出始める。つまりメラトニンは、私たちの睡眠のオン・オフスイッチそのものです。

時差ボケの辛さは、このメラトニンの分泌タイミングが現地時間とズレていることから生じます。現地の夜、本来なら寝るべき時間にメラトニンが分泌されず、目が冴えて眠れない。逆に現地の午後に眠気が襲う。

市販のメラトニンサプリメントは、このズレを短縮する目的で使われますが、日本では医薬品扱いのため入手には注意が必要です(海外では一般にサプリメント)。

2. 西洋医学的アプローチの実力と限界

現代の西洋医学は、時差ボケに対して主に3つのアプローチを持っています。

① 光療法(ライトセラピー)

最も科学的根拠のある方法です。目的地の時間帯に合わせて、朝日(または高照度ライト)を浴びることで、体内時計を強制的にリセットする。私も毎朝30分の散歩を10年続けていますが、これだけで時差ボケの長さが明らかに短くなりました。

② メラトニン補給

目的地の就寝時刻の30分前にメラトニンを摂取する方法。海外出張者の間では一般的ですが、個人差が大きく、日本で入手できる製品は限定的です。

③ ジェットラグ計算アプリ

いくつかのアプリが「光を浴びる時間」「避ける時間」を個別に計算してくれます。ただし、多くは光管理のみで、食事・運動・気の巡りまでは考慮していません。

これらは確かに有効です。しかし、私自身が10年以上試してきて感じるのは、「西洋医学的な時差ボケ対策は、時計の針を合わせることには長けているが、体全体の消耗そのものを癒すことには弱い」という点です。

長時間フライトで疲弊するのは、体内時計だけではありません。乾燥した機内で粘膜が傷み、座りっぱなしで血流が滞り、緊張で自律神経が乱れている。光とメラトニンだけでは、この全身の消耗には追いつかないのです。

3. 東洋医学が見る「気の乱れ」としての時差ボケ

ここで東洋医学の出番になります。

私が長年師事している神山道元先生(漢方医)は、時差ボケをこう表現しました。

「時差ボケは、衛気(えき)と営気(えいき)のリズムが乱れた状態です。体が『昼の気』を出すべき時に『夜の気』を出してしまっている。これは単に眠いのではなく、防衛機能全体が空回りしている状態なのです」

東洋医学では、体を巡る気には複数の種類があります。

  • 衛気(えき):体の表面を巡り、免疫・発汗・体温調整を司る気。昼に盛んになる。
  • 営気(えいき):血管内を巡り、栄養を運ぶ気。夜に休養と修復を担う。
  • 宗気(そうき):呼吸と心拍を司る、胸に集まる気。

時差ボケが起きると、この3種類の気のリズムが全部ズレます。特に衛気と営気の切り替えが狂うことで、昼なのに免疫が働かず、夜なのに修復が進まない、という二重の損失が発生する。だから出張後、風邪を引きやすいのです。

加えて、長時間フライトは「三焦(さんしょう)」という、水分と気の通り道を疲弊させます。乾燥・ストレス・姿勢の固定が三焦を詰まらせ、結果として頭重感・むくみ・胃腸不調といった症状が現れる。

この視点を持つと、時差ボケ対策は「時計の調整」だけでなく「気と水の巡りの回復」も同時に行う必要がある、ということが見えてきます。

4. 統合プロトコル:7日間で設計する出張回復

以上を踏まえて、私が実践している7日間プロトコルを公開します。これは西洋医学の光・メラトニン管理と、東洋医学の気・水の巡り対策を統合したものです。

日程テーマ具体的な行動
Day -3体内時計の前調整就寝時刻を目的地時間に合わせ1時間ずつ前倒し(or 後倒し)。光暴露も同時調整。
Day -2胃腸と免疫の強化16時以降カフェイン停止。黒酢漬け緑豆を朝食に取り入れる。アルコール控えめ。
Day -1気の整え夕食は消化に優しいもの。入浴42度×10分で発汗。就寝前に合谷ツボ押し60秒×3回。
Day 0移動日の消耗を最小化機内は白湯と水のみ。アルコール・冷たい飲料は避ける。窓側確保で光を自在にコントロール。2時間おきの足首回し。
Day +1現地時間への同期朝の散歩30分(最強の体内時計リセッター)。朝食はタンパク質中心で温かく。昼寝は20分以内。
Day +2~3肝の気を整える太衝ツボを朝晩各1分。規則正しい食事時間を守る。激しい運動は避け、軽い散歩程度に。
Day +4~通常モードへ復帰帰国後は一晩休んでから業務再開が理想。腎精を補う黒豆・山芋などの補腎食を意識。

このプロトコルの肝は、「出張は3日前から始まり、帰国後4日まで続く」という認識にあります。移動日だけを出張と考えていると、必ず消耗が蓄積します。

5. 機内で効く、2つのツボ

プロトコルの中で繰り返し登場する合谷(ごうこく)と太衝(たいしょう)について、補足します。

合谷(ごうこく):万能のリセットボタン

親指と人差し指の骨が合わさる手前のくぼみにあります。頭痛、肩こり、ストレス、免疫低下まで効くとされる、東洋医学で最も多用されるツボの一つ。

使い方は、反対の親指で垂直に圧をかけ、少し痛気持ちいい程度の強さで60秒。これを3回繰り返す。機内でもラウンジでも、どこでも押せるのが最大の利点です。

太衝(たいしょう):肝の気を整える

足の甲、親指と人差し指の骨が合わさる手前のくぼみ。肝の気が集まるとされるツボで、ストレス・イライラ・眠りの質の低下に効きます。

現地到着後の2〜3日、朝晩に1分ずつ押すと、気持ちの切り替えと眠りの深さが変わってきます。私は商談前夜、ホテルの部屋でこれを習慣にしています。

6. 実例:ロンドン出張で検証した結果

このプロトコルを、昨年のロンドン出張で厳密に実践しました。

羽田-ロンドン便(時差9時間)で、出発3日前から就寝時刻を段階的に前倒し。機内では白湯のみ、窓側で光を調整。到着初日は朝のハイドパーク散歩30分を確保し、午前中の打ち合わせには太衝ツボ押しで臨みました。

結果、現地3日目には通常パフォーマンスに復帰。帰国後も2日で元のリズムに戻りました。以前なら1週間は引きずっていたことを考えると、プロトコルの効果は明らかです。

もちろん個人差はあります。しかし「気合いで乗り切る」ことをやめ、設計された回復プロセスに従うだけで、出張の質が根本から変わることは、私自身が何度も経験しています。

7. 出張を「借金」ではなく「投資」にするために

海外出張を続けていると、ある瞬間に気づきます。

それは、出張とは体力の借金だ、ということです。行けば必ず消耗する。問題は、その借金をいつ、どうやって返すかです。

若い頃の私は、借金を借金で返していました。消耗したまま次の出張に飛び、さらに消耗を重ねる。いつしかそれが体調不良として顕在化し、数週間寝込むことでしか返済できない事態になる。

この連載でお伝えしたいのは、出張を借金にせず、むしろ投資にする方法です。戦略的に設計された出張なら、現地での成果も、帰国後の生産性も、そして次の出張への備えも、すべてプラスに積み上がっていく。

そのために必要なのは、根性でも気合いでもなく、知識と仕組みです。

次回は、機内という湿度15%の乾燥砂漠で、肌・喉・胃腸をどう守るか。「肺」の養生術を中心に、12時間フライトを消耗戦にしないための実践を詳しくお伝えします。


※本記事は東洋医学の考えに基づく養生の知恵を紹介するものであり、医療行為の代替を推奨するものではありません。症状がある方は必ず医療機関を受診してください。


関連リンク・参考文献

  • 神山道元『東洋医学と現代ビジネスパーソン』
  • Nature Reviews Neuroscience: Circadian rhythms and sleep(参考論文)
  • 養生日和 関連記事:「黒酢漬け緑豆の作り方」
  • 養生日和 関連記事:「合谷ツボの詳しい押し方」

イライラして眠れない夜が続くあなたへ——神山先生が語る「肝鬱気滞」と加味逍遙散

特別なことは何もないのに、気持ちがざわざわして落ち着かない。夜、布団に入っても頭のなかでぐるぐると考えごとが回り続け、気づけば2時、3時。翌朝はだるさを引きずったまま出勤し、ちょっとしたことでイライラして家族に当たってしまう——。そんな日が続いていませんか。胸のあたりがつかえる、ため息が増える、生理前になると症状が重くなる。病院で検査をしても「異常なし」と言われる。けれど、確かに身体はつらい。その違和感は、あなたの思い過ごしではありません。東洋医学には、その状態を説明するはっきりとした言葉があります。

西洋医学から見る「ストレス性の不調」

西洋医学では、こうした症状はしばしば「自律神経失調症」「適応障害」「軽度のうつ状態」「更年期症候群」などと診断されます。処方されるのは抗不安薬、睡眠導入剤、抗うつ薬、あるいはホルモン補充療法などです。これらの薬は症状を一時的にやわらげる力を持っており、必要な場面では大きな助けになります。しかし、多くの方が「飲んでいる間は楽だが、根本的に変わった気がしない」「薬をやめるとまた戻ってしまう」という感覚を抱えています。なぜなら西洋医学は、脳内の神経伝達物質やホルモンという「結果」に働きかけるアプローチだからです。その手前で何が起きているのか、という問いへの答えは、東洋医学のなかにあります。

東洋医学が見る「肝鬱気滞(かんうつきたい)」という証

神山先生はこうした症状を、五臓のうち「肝」のはたらきが乱れた状態として診られます。ここで言う肝とは、現代医学の肝臓そのものではなく、気(エネルギー)をのびやかに巡らせ、情緒を整える機能のまとまりを指します。肝は「疏泄(そせつ)」という大切な役目を担っています。疏泄とは、気を身体のすみずみまでのびのびと流す働きのこと。ストレス、我慢、言えなかった言葉、やり場のない怒り——こうしたものが積み重なると、肝のはたらきが鈍り、気の流れが停滞します。これが「肝鬱気滞」という証(しょう)です。

気が滞ると、まず情緒に波が出ます。イライラ、憂鬱、ため息、胸脇部のつかえ。さらに滞りが続くと、上に昇って頭痛や不眠を生み、横に広がれば胃腸を乱して食欲不振や胃痛を招き、下に降りて生理痛や月経前症候群を重くします。「検査では異常なし」なのに全身のあちこちが不調なのは、ひとつの原因(気の滞り)が複数の場所に姿を変えて現れているからなのです。「病気」ではなく「気の病」。この見立てができると、ようやく次の一手が見えてきます。

神山先生が処方される漢方——加味逍遙散を中心に

肝鬱気滞の代表的な処方が「加味逍遙散(かみしょうようさん)」です。「逍遙」とはゆったり散歩するという意味。滞った気をほどき、血を補い、ほてりを鎮める——まさに「滞った心身を散歩に連れ出す」ような処方です。とくに、イライラとのぼせを伴い、月経トラブルを抱える女性に適しています。同じ肝鬱でも、胸脇の張りや腹部の違和感が強く、ストレス性の胃腸症状が前に出る方には「四逆散(しぎゃくさん)」。のどに何か詰まった感じ(梅核気)が強ければ「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」。不眠と動悸が目立つなら「抑肝散(よくかんさん)」や「加味帰脾湯(かみきひとう)」が候補になります。どの処方が合うかは「証」次第——舌の色、脈、お腹の張り方、体質の全体像から判断されるもので、自己判断ではなく必ず漢方に詳しい医師や薬剤師にご相談ください。

薬と並んで神山先生が必ず伝えられるのが、日々の養生です。①香りのよい食材(春菊、三つ葉、柑橘類、ミント、ジャスミン茶)で気を巡らせる。②夜11時までに寝る。肝が血を養う時間は23時から午前3時です。③軽いストレッチや散歩で身体の側面(肝の経絡が走る場所)をゆるめる。④泣きたいときは泣き、言いたいことは紙に書き出す。感情を溜めないことが、何よりの疏泄です。

まとめ——「治す」のではなく「巡らせる」

イライラや不眠は、あなたが弱いから起きているのではありません。我慢強く、真面目に、ずっと頑張ってきた肝が、少し息切れしているだけです。東洋医学は、その状態に「肝鬱気滞」という名前を与え、「気を巡らせる」という方向を示してくれます。加味逍遙散が力を貸してくれる場面もあれば、夜11時の就寝と柑橘の香りだけで十分なこともある。治すのではなく、整える。押さえ込むのではなく、流す。今夜、深呼吸をひとつ、ゆっくりと。


※本記事は東洋医学の考えに基づく養生の知恵を紹介するものであり、医療行為の代替を推奨するものではありません。症状がある方は必ず医療機関を受診してください。漢方薬の服用は、漢方に詳しい医師・薬剤師の指導のもとでお願いいたします。


神山先生の貴重な教えをデータベースにして、いつでも身体の不安を訴えることができるAIアプリを開発しています。
東洋医学的な自分の立ち位置を確認してみてください。
このアプリも、医療行為の代替を推奨するものではありません。症状がある方は必ず医療機関を受診してください。

【養生問答】ストレスで身体がボロボロに——3つの素朴な疑問に東洋医学が答えます

「最近、特別なことは何もないのに、胃がムカムカする」「イライラして眠れない夜が続く」「ふとした瞬間に胸がドキドキする」——4月、新しい環境や人間関係の変化で、こんな不調を感じていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。

病院で診てもらっても「ストレスでしょうね」「検査では異常はありません」と言われ、けれど身体は確かに辛い。そんな読者の方からよくいただくご質問が、三つあります。今回はこれらに、東洋医学の養生の視点からお答えしていきますね。「気のせい」と片づけられてしまう不調にも、ちゃんと身体の理由があるのです。


Q1. ストレスがあると、なぜ胃が痛くなるのですか?

西洋医学では、ストレスで自律神経が乱れ、胃酸の分泌過剰や血流の低下が起こると説明されます。診断名としては「機能性ディスペプシア」や「神経性胃炎」と呼ばれることが多いですね。胃カメラを呑んでも炎症や潰瘍は見つからない。けれど胃は確かに痛む——そんな状態です。

東洋医学では、これを「肝気犯胃(かんきはんい)」と捉えます。少し難しい言葉ですが、「肝(かん)」とは感情をコントロールし、気の巡りを司る臓器のこと。ストレスで肝の働きが滞ると、その停滞した気が隣にある「胃」を突き上げてしまう、という考え方です。

肝はのびやかに動きたい性質を持っていて、抑え込まれることを嫌います。我慢、気を遣う日々、言いたいことを飲み込む——こうした生活が続くと、肝の気が暴れ出し、最初に犠牲になるのが消化器なのです。「胃が悪い」のではなく「肝が苦しがっている」と読み替えるところに、養生の入り口があります。


Q2. イライラするとなぜ眠れなくなるのですか?

西洋医学では、交感神経の緊張、コルチゾールの分泌、メラトニンの抑制——というホルモンと自律神経のメカニズムで説明されます。

東洋医学では、「肝鬱化火(かんうつかか)」、つまり溜まった肝の気が熱を持ち、その火が「心(しん)」に飛び火している状態と見ます。心は精神活動と睡眠を司る臓器。ここに肝からの熱が上がってくると、頭は冴え、目は爛々として、布団に入っても考えごとが止まらない——いわゆる「眠ろうとすればするほど眠れない夜」が生まれます。

身体を観察すれば、舌の先が赤い、口や喉が渇く、夢が多い、目が充血する、といった「上半身に熱がこもっているサイン」が出ているはずです。睡眠薬で蓋をするのではなく、まず火を冷ますこと、そして気の出口を作ってあげることが、養生のアプローチになります。


Q3. 不安で胸がドキドキするのは、どう整えればいいですか?

これは「心血虚(しんけっきょ、こころを養う血の不足)」、あるいは「気滞(きたい、気の巡りの詰まり)」のどちらか、または両方が重なっている状態と診ます。

ストレスで食欲が落ち、夜更かしが続けば、血は確実に消耗します。すると心は栄養不足となり、ちょっとしたことで不安に襲われ、動悸が起こる。「気の小さい人」ではなく「心血が足りていない人」というのが、東洋医学の見方です。性格の問題ではなく、栄養と巡りの問題——そう捉え直せると、ずいぶんと気持ちが楽になりますね。


今日からできる、肝と心の養生法

まず深呼吸を意識すること。肝の気を巡らせる最もシンプルな方法は呼吸です。鼻から4秒吸って、口から8秒かけて吐く。これを朝晩5回ずつ。気が動き出します。

次に香りの力を借りる。みかんの皮、ジャスミン、ミント、しそ、セロリ——香りのある食材は肝の気を巡らせる「理気(りき)」の働きを持ちます。お茶に陳皮(みかんの皮)を一片浮かべるだけでも違いますよ。

そして目を休めること。「肝は目に開竅(かいきょう)する」と言われ、目の使いすぎは肝を疲弊させます。寝る一時間前にはスマホを置く。これだけで翌朝の身体は変わります。

夕食には棗(なつめ)と龍眼肉を煮出したお湯を一杯。心血を養い、不安を鎮めるシンプルな処方です。スーパーや中華食材店で手に入ります。


まとめ——「気のせい」ではなく「気の停滞」

ストレスによる不調は、「気のせい」ではなく「気の停滞」です。心を強く持とうとするのではなく、肝の気を巡らせ、心の血を養う。「治す」のではなく「整える」——その小さな積み重ねが、4月の揺らぐ心と身体を、静かに支えてくれます。

今日から一つだけでいい。深呼吸でも、お茶一杯でも、スマホを置く時間でも。始められそうなところから、始めてみてください。


※本記事は東洋医学の考えに基づく養生の知恵を紹介するものであり、医療行為の代替を推奨するものではありません。症状がある方は必ず医療機関を受診してください。


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これまで読んでくださった皆さんへ

このブログを続けて読んでくださってきた方には、まず一つだけお礼を申し上げたいのです。

正直に言うと、ここに書いてきたことは、楽しい話や役に立つ話ばかりではありませんでした。
むしろ、苦しかった時期のこと、答えが出ないまま抱え込んでいた迷い、そういうものを文字にすることで、なんとか形にしてきたような場所でした。

それを読んで、コメントをくださったり、黙って読み続けてくださったりした皆さんが、私にとってはずっと支えでした。
大げさに聞こえるかもしれませんが、本当にそう思っています。

今日は、これからこのブログをどう書いていきたいか、少しお話しさせてください。
方向転換のお知らせではなく、むしろこれまで書いてきたことの、続きのつもりです。

振り返ると、私はずっと『中断』を書いていた

改めてこのブログの記事を見返してみて、気づいたことがあります。

私はずっと、「中断」の話を書いていたのです。

ルクセンブルクに赴任したとき、私のTOEICは420点でした。
自分なりには「結構できる」と思い込んでいた半人前エンジニアが、ゼロベースで700名規模の工場を立ち上げる仕事にいきなり放り込まれた。
採用から準備、生産開始、24時間3交代の稼働まで、一気に進んでいくプロジェクトです。
順調なわけがない。
能力も中途半端、言葉もできない、相手も日本人ではない。
それでも、後ろには誰も控えていない——助けてくれる上司も、代わってくれる同僚もいない。
この「後ろに誰もいない恐怖」は、一度味わうと人を変えます。
アホでも、一人前になるのです。

結婚したばかりで連れて行った家内は、トラブル続きで家に帰ってこない夫を、ひたすら待ちぼうけでした。
当時は気づいていなかったけれど、その時点ですでに、私は家族の時間にたくさんの「中断」を作っていたのだと、今ならわかります。

それでも、言葉を覚え、仕事を覚え、たくさんの経営者と知り合って、そうするうちに、少しずつ考え方が変わっていきました。
技術者一辺倒だった自分は、石頭で、お客様の顔も見えていなかった。
凝り固まった、アホな自信で自分を守っていただけでした。
縁があって、事業の全体が見られるプロジェクトに入れてもらえたのは、大きな転機でした。
時間をかけて、ようやく全体を見る目が出来上がっていった。
バケーションという休み方の大切さも、日本にいたら理解できなかったと思います。

海外で長く働いて、ようやく日本に戻ってきたとき、帰ってきたはずなのに、居場所がうまく掴めない感覚がありました。
本社の会議に入っても、自分だけ別のゲームをしていたような違和感がある。
海外で身についた意思決定のスピードや、ダイバーシティを前提にした物の見方は、日本の組織の中では必ずしも歓迎されません。
それは分かっていたつもりでしたが、実際に直面してみると、予想以上に消耗するものでした。

妻の病気

そのあとに、妻の病気がありました。

このことは、このブログに何度も書いてきたので、今日は少しだけ。

アメリカに住んでいたある日、妻が倒れて、助からないかもしれない、という状況になりました。
何が起きているのかも、すぐには理解できませんでした。
最初にかかった病院では手の施しようがないと言われて、超巨大な病院に運ばれました。
受付で「お金持ってる?」と聞かれて、「なんとかするから!!」としか答えられなかった。
そんな場面でした。

妻は命はつなぎました。
けれど、右半身の麻痺、失語症、視野欠損が残りました。
そして、脳卒中のあとに残る強烈な痛み——。
この痛みに、一時的にでも効く薬がなかなか見つからない。
私たち夫婦は、その痛みの手がかりを探し続けて、もう15年になります。
今日も、その途中です。

無職の期間

アメリカの病院で、考えられないほどの金額を払いました。

金がない、仕事もない、働きに出ることもできない——妻のそばを離れられないから。
自分ひとりで稼ぐ方法を、そもそも私は知らないんだ、という事実に初めてぶつかった時期でした。
神様が助けてくれるかな、と思考が飛ぶような瞬間さえありました。

はっきり書きますが、お金が入ってこなくて、貯金だけが減っていく、いつ無くなるのかという恐怖と戦う状態というのは、思考停止しか楽になる手段がないんですよ。
あれは経験しないと分からない感覚です。

それでも、日々は続きます。

『空白』が私に残してくれたもの

ここが、今日いちばん書きたかったことです。

中断というのは、世の中的にはマイナスです。
履歴書の「空白期間」は、どう埋めるかを問われるもの。
仕事から離れた時期は、なるべく早く「普通」に戻すべきもの。
それが、日本の社会の、静かだけれど強い前提になっています。

でも、私は今、違うことを思っています。

家族の誰かが大病やメンタルダウンの時に、迷わずに仕事から離れる。
そのことで、キャリアがマイナスになるどころか、プラスになる——そういう生き方が、もっと普通にあっていいはずです。

「あの時しか気づけなかったことが、ひとつあった」——そういうロマンチックな書き方を、私はしたくありません。

正直に言えば、そういう一点突破の気づきは、私にはなかったからです。

あるのは、「こうなったから気づけたことが、数えきれないほど積み重なっている」という、もっと地味で、もっと揺るぎのない事実です。

その中で一番大きいのは、人の痛みがわかるようになったことです。

これは、仕事を続けていたら、たぶん一生身につかなかった感覚です。
それを知らないまま生きていたら、ルクセンブルクで出会った経営者たちの言葉も、半分しか聞こえていなかったかもしれない。そう思います。

師を探す旅

妻の痛みに、どうにか手がかりを見つけたい。
その一心で、私はずっと動き続けてきました。

ドクターショッピング(もちろん現代医学だけでなく)の中で、大学病院にも3か所行きました。

大阪大学病院では、痛みを和らげる目的で電極を埋め込みました。
残念ながら、効果は得られませんでした。
東京医科大学病院のペインクリニックでは、痛みの大きさが尋常でないことが測定で分かりました。
それでも、良くなる方向に進む道はなかなか見えません。
電極を抜去してくださった執刀医の先生が、横浜市大から来られていて、そちらのペインクリニックを紹介してくださいました。
1年待って、ようやく診察を受けた初日に、「治らないよ!」と言われました。
骨粗鬆症の検査をはじめ、痛みとは関係のない、患者の痛みは二の次の、病院経営の匂いがプンプンする勧めには疲れました。

ありとあらゆる方法を試しても、辿り着かない。
諦めそうになるのですが、諦められるわけがない。
そういう日々の中では、いつでもどこでもアンテナを張っている——そういう状態がずっと続いていました。

ある日、YouTubeのおすすめに、一人の先生が現れました。

色彩療法の阿久沢先生です。

すぐに電話をして、水戸まで車で行きました。
泊まりがけで。
先生はたくさんの手技をお持ちで、話を伺っているうちに、長く張っていたアンテナが、ようやく何かを捉えた——そういう感覚がありました。
効いた/効かない、という話ではありません。
ただ、「ここは通うべき場所だ」と身体が知った、と言ったら近いかもしれません。

そして阿久沢先生から、こう言っていただきました。
「体力が追いつかないね。漢方の助けも要るよ」。
そう言って、もうお一人の先生を紹介してくださいました。

それが、神山道元先生でした。

これから書いていきたいこと

ここからは、ゆっくり、一本ずつ書いていきます。

養生というのは、病気を治す方法ではありません。
神山先生ご自身、そうはっきりおっしゃいます。
医療の代わりではなく、医療と並んで、自分の体と日々を整えていく——そういう「稽古」の話です。

それが、50代の妻にとって、思いのほかしっくり来ました。
なぜかは、これから一本一本の記事で、具体的に書いていきます。

このブログには、これから「養生日和」という軸を加えていきます。

神山道元先生から教わっていること、阿久沢先生から教わっていること、そして私と家族が実際に日々実践してきて、少しずつ気づいてきたことを、難しくせず、毎日の具体の中で書いていきます。
呼吸、食事、睡眠、季節の変わり目の過ごし方。
そういう話です。

一つだけお断りしておきたいことがあります。

これらは医療のお話ではありません。
体調の不安があるときは、必ず医師にご相談ください。
私が書くのはあくまで、「もう一つの見方」としての養生です。
医療と並んで、自分の日々を整える稽古のこと。

でも、これまでの記事も消しません

方向を変えるからといって、これまで書いてきた記事を消すつもりはありません。

あの時期の苦しさや迷いは、今の私から見ると「起点」だったのだと分かります。
でも、苦しんでいたその瞬間には、それが起点になるなんて、まったく見えていませんでした。

だから、残しておきたいのです。
今まさに「中断」のただ中にいて、このブログを見つけてくださった方が、もしいらしたら、その方に読んでいただきたい。
「このあと、ちゃんと続きがありますよ」と、私自身の記録で伝えたいからです。

一緒に歩いてくれる人へ

これから書いていく養生日和の記事は、読むだけでも何かが残る、そういうものにしたいと思っています。

神山先生・阿久沢先生の教えを、もう少し体系立てて学んでみたい、という方向けの学びの場も、時期を見てご案内します。

タイミングを見つけて、神山道元先生について、もう少しきちんと書きます。


※本記事は学習・教育目的の内容です。医療行為ではありません。健康上のご不安は医師にご相談ください。


神山先生の貴重な教えをデータベースにして、いつでも身体の不安を訴えることができるAIアプリを開発しています。

春のイライラを食卓から整える——「理気」の食材でストレスに疲れた肝を癒す食養生

新年度が始まって三週間。職場や学校、家庭の環境が変わり、気づけば肩に力が入り、ちょっとしたことでイライラしたり、ため息が増えていませんか。「別に大きな悩みがあるわけではないのに、なんとなく落ち着かない」「胃のあたりが張って、食欲がない」「眠りが浅く、朝からどんよりしている」——春のこの時期、そんな声を本当によく聞きます。私自身、家内の介護と仕事の谷間で、四月の終わりにいつも調子を崩します。実はこれ、気合いや根性の問題ではなく、季節と身体の「ある臓器」が関係しているのです。今日はそのヒントを、台所から見つけていきましょう。

西洋医学でみる春のストレス反応

現代医学では、春先のメンタル不調は「自律神経の乱れ」や「ストレス反応」として説明されます。新生活による緊張、気温や気圧の急変、日照時間の変化によって、交感神経が優位になり、コルチゾールなどのストレスホルモンが多く分泌される。その結果、胃腸の動きが悪くなり、寝つきが悪くなり、気分が不安定になる——という流れです。対処法として推奨されるのは、十分な睡眠、適度な運動、カフェインやアルコールの節制、必要に応じて抗不安薬や睡眠導入剤の活用。正しい指導です。ただ、これだけでは「なぜ春に多いのか」「なぜ食欲が落ちるのか」までは、なかなか腑に落ちないのも事実です。

東洋医学でみる——春は「肝」が揺れる季節

東洋医学では、春は五臓のうち「肝(かん)」と深く結びつく季節です。ここでいう肝は、西洋医学の肝臓と重なる部分もありますが、もう少し広い働きを担う概念です。神山道元先生がよく仰るのは「肝は将軍の官、謀慮(ぼうりょ)出づ」という古典の一節。つまり、肝は気・血・情緒をのびやかに巡らせ、戦略を立てて指揮する司令塔のような臓器だ、ということです。

春になると、自然界は草木が芽吹き、気が上へ外へと発散する季節になります。身体の中でも肝が活発に動き始め、気を全身に巡らせようとします。ところがこの時期、緊張やストレスが重なると、肝の「疏泄(そせつ)」——気をのびやかに流す働き——が滞ります。これを「肝気鬱結(かんきうっけつ)」と呼びます。気が流れずに詰まると、胸脇(みぞおちの両脇)が張る、ため息が出る、イライラする、眠りが浅くなる、という典型的な症状が出てきます。さらに、肝は五行の相克関係で「脾(ひ=消化吸収を担う働き)」を抑えるので、滞った肝は胃腸にも波及し、食欲不振や腹部膨満、軟便といった不調を引き起こします。春先の胃腸トラブルも、実は肝のせいだったりするのです。ここで大切なのは、肝を「抑える」のではなく、詰まった気を「流してあげる」こと。これが、春の食養生の核になります。

台所でできる「理気(りき)」の食養生

気を巡らせる働きを、東洋医学では「理気(りき)」と呼びます。理気の食材にはいくつか共通点があります。第一に、香りが良いこと。香りは気を動かす代表的な力です。第二に、少しほろ苦い、あるいは爽やかなものが多いこと。第三に、柑橘類やセリ科の野菜に多いことです。今が旬のものから、今日から取り入れられる五つをご紹介します。

① セロリ(性:涼、帰経:肝・胃)——香りで肝気を流し、のぼせたイライラを鎮めます。生のままスティックにして味噌をつけるか、浅漬けにするのが手軽。火を通すなら、さっと炒めて香りを残すこと。

② 三つ葉(性:温、帰経:肝・肺)——日本の「理気」食材の代表。味噌汁やお吸い物、卵とじに最後に加えるだけで、胸のつかえがふっと軽くなります。軸ごと刻んでください。

③ 春菊(性:平、帰経:肝・肺・胃)——香り野菜の王様。鍋の後半に入れる、ごま和えにする、生のままサラダにする。苦味と香りが肝の疏泄を助けます。

④ 柑橘類と陳皮(ちんぴ)——デコポン、甘夏、グレープフルーツなど、春の柑橘は理気の宝庫です。みかんの皮を干した「陳皮」は、番茶に一片浮かべるだけで立派な理気茶に。

⑤ ジャスミン茶・ミント茶——香りで気を巡らせる代表的な飲み物。夕方、ため息が増えてきた頃に一杯。カフェインが気になる方はミント茶で。

食べ方のコツは、**「よく噛んで、香りを鼻に抜けさせながら食べる」**こと。香りは舌ではなく鼻で気を動かします。スマホを置いて、深く一呼吸してから口に運んでください。それだけで効きが変わります。

まとめ——肝は「治す」のではなく「流してあげる」

春のイライラやモヤモヤは、弱さや性格のせいではなく、季節と身体のリズムの問題です。肝は抑え込もうとすると、かえってこじれます。香りのある野菜と柑橘で、詰まった気をそっと流してあげる——それだけで、眠りが深くなり、胃が軽くなり、気分の輪郭がやわらかくなっていきます。薬に頼る前に、まず夕食の味噌汁に三つ葉をひとつまみ。養生は、いつも台所から始まります。


※本記事は東洋医学の考えに基づく養生の知恵を紹介するものであり、医療行為の代替を推奨するものではありません。症状がある方は必ず医療機関を受診してください。


ストレスで胃が痛い人へ——東洋医学が教える「肝胃不和」と今日からできる養生法

同じような事を、毎日書いているなあ。そう思う方がいらっしゃるでしょう。
原因は様々なのに、同じような薬が処方される現実。
これが問題だと思っているのです。

症状に合わせて処方される西洋医学(簡単に書きすぎですが)、体に合わせて根本を修正する東洋医学。
これをわかって欲しいのです。


会議の前になるとキリキリ痛む。嫌な相手からのメールを見た瞬間、みぞおちが重くなる。日曜の夜、月曜の仕事を思い浮かべた途端に胃がムカムカする——。そんな経験を繰り返している方は少なくないのではないでしょうか。病院で胃カメラを受けても「特に異常はありません」と言われ、処方された胃薬を飲んでもスッキリしない。それでもストレスを受けるたびに胃は反応してしまう。この「検査では異常なしなのに、ストレスで胃が痛い」という現代病の正体を、今日は東洋医学の視点から読み解いていきます。結論からお伝えすると、東洋医学ではこの状態を「肝胃不和(かんいふわ)」と呼び、胃そのものよりも感情を司る臓の乱れとして捉えます。

西洋医学ではどう考えられているのか

現代医学では、ストレスによる胃の不調は「機能性ディスペプシア」や「神経性胃炎」と診断されることが多い症状です。仕組みとしては、精神的ストレスが自律神経のバランスを乱し、胃酸の分泌過多や胃の蠕動(ぜんどう)運動の異常を引き起こす、と説明されます。治療としてはPPI(胃酸を抑える薬)、消化管運動機能改善薬、抗不安薬などが使われ、加えて「ストレスを溜めないように」「規則正しい生活を」というアドバイスが添えられます。

しかし多くの方が経験されているように、薬を飲んでいる間は楽でも、やめるとぶり返す。そして何より、「ストレスを溜めるな」と言われても、現代社会で生きている限り溜めずにいるのは不可能です。ここに西洋医学的アプローチの限界があります。

東洋医学が見る「肝胃不和」——胃痛は胃だけの問題ではない

東洋医学には「肝(かん)」という概念があります。これは西洋医学でいう肝臓そのものではなく、気(エネルギー)の流れをスムーズに保ち、感情をコントロールする働きを担う存在です。イライラ、怒り、プレッシャー、緊張——こうした感情を受け止めるのが、この「肝」です。

そして肝は、木が土を押さえつけるように胃(東洋医学では「脾胃」と呼びます)を制御する関係にあります。これを五行論では「木克土(もっこくど)」と言います。

ここで問題が起きます。ストレスが続くと、肝の気の流れが滞ります。これを「肝気鬱結(かんきうっけつ)」と呼びます。ガス欠ではなく、交通渋滞のような状態です。滞った気はやがて行き場を失い、木が暴れて土を攻撃するように、胃へと押し寄せていきます。この状態が「肝気犯胃(かんきはんい)」、すなわち肝胃不和です。

この視点に立つと、なぜ胃薬が根本的に効かないのかが見えてきます。痛んでいるのは胃ですが、暴れているのは肝だからです。胃をなだめるだけでは、元栓は閉じられません。だから「ストレスで胃が痛い」という悩みは、感情の出口が詰まっているサインとして読み解く必要があるのです。

肝胃不和のサインは胃痛だけではありません。ため息が増える、脇腹が張る、喉に何かが詰まった感じがする(梅核気)、げっぷやガスが多い、食欲にムラがある。これらが揃っていたら、まさに肝の気が滞っている状態と考えられます。

今日からできる養生法——「流す」「緩める」「温める」

肝胃不和の養生は、薬でねじ伏せるのではなく、滞った気を流し、張りつめた身体を緩めることが基本です。

1.深呼吸で横隔膜を緩める ストレスを感じている時、呼吸は必ず浅くなっています。鼻から4秒吸い、口から8秒かけて細く長く吐く。これを朝晩3分ずつ。吐く息を長くすることで副交感神経が優位になり、肝気が動き出します。

2.香りのある食材で気を巡らせる 肝気鬱結には「理気(りき)」の食材、つまり気を巡らせる香り高い食材が効きます。みかんやゆずの皮、しそ、三つ葉、春菊、セロリ、ミント、ジャスミン茶など。特に4月の今、旬の春菊や三つ葉は理気食材の代表格です。温かい味噌汁に刻んで散らすだけで、立派な養生食になります。

3.胃を冷やさない、胃を働かせすぎない 肝に攻撃されている胃は、すでに疲弊しています。冷たい飲み物、生野菜、遅い時間の食事は避けてください。朝はお粥や具だくさん味噌汁など、温かくて消化の優しいものを。夜はできれば20時までに食事を済ませ、胃を休ませてあげましょう。

4.「合谷(ごうこく)」と「太衝(たいしょう)」を押す 手の親指と人差し指の付け根にある合谷、足の親指と人差し指の骨の間を辿った窪みにある太衝。この二つを合わせて「四関穴(しかんけつ)」と呼び、気の巡りを改善する代表的なツボです。痛気持ちいい強さで、片側1分ずつ。1日に何度でも。
絵のセンスは…………..ごめんなさい。

5.夜、空を見上げる これは私自身がおすすめしている習慣です。夜、窓を開けて空を見上げる。たった30秒でいい。視線を上げる行為そのものが、うつむきがちな気を上へ動かすのです。肝の気は、上へ伸びていきたがる木の性質を持っています。物理的に視線を上げることは、そのまま養生になります。

まとめ——「胃を治す」のではなく「気を整える」

ストレスで胃が痛いという現代病は、胃の病気ではなく感情の通り道が渋滞している合図です。だから、目指すのは「治す」ではなく「整える」こと。胃をなだめる前に、肝の気を流してあげる。食材と呼吸とツボで、少しずつ滞りをほどいていく。薬を否定するものではありません。ただ、薬が効かない痛みにこそ、養生の知恵が寄り添えると私は信じています。ストレスはゼロにできませんが、受け流す身体は作れます。


※本記事は東洋医学の考えに基づく養生の知恵を紹介するものであり、医療行為の代替を推奨するものではありません。症状がある方は必ず医療機関を受診してください。


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