育毛剤をつけると脇腹が痛む? 頭皮と肝臓の意外な関係を中医学で読み解く

「頭が痒くなってヘアトニックをつけたら、数日後に脇腹が痛くなった」——この経験、偶然ではありません。中医学はこの関係を、2000年前から知っていました。

こんにちは、養生日和のパッチングワーカーです。

頻繁というほどではありませんが、まれに頭が痒くなって、頭皮が剥けるというか簡単に剥がれる現象に悩まされることがあります。
重圧を抱えていたり、時間に追われていることが殆どだったので、西洋医学的に「ストレスだな」って片付けていました。
でも、本質的な体の悲鳴とは考えすに、刺激の強めなヘアトニックをつけたりして凌いでいました。

ある日、頭皮が痒くなって市販のヘアトニック(育毛効果を謳うもの)を使ったところ、数日後に脇腹に違和感を覚えました。
気になってAI神山道元先生(中医学専門医、龍門派)に相談したところ、こんな答えが返ってきました。

「頭皮の問題は、肝臓が出しているサインです。まずは酢玉ねぎを食べなさい」

最初は「え?」と思いました。頭皮と肝臓がどう関係するのか。でも調べるほどに、これが単なる民間療法ではなく、中医学の体系的な理論に基づいていることがわかってきました。

今回は、育毛剤と肝臓の関係、そして中医学の視点からの根本的なアプローチをお伝えします。

1|なぜ「脇腹」が痛くなるのか

脇腹の痛み、特に右の脇腹はどの臓器のエリアか、知っていますか?

そうです、肝臓と胆嚢です。

市販の育毛成分(ミノキシジルをはじめとする血管拡張剤や育毛促進剤)は、皮膚から吸収されたあと、血液にのって肝臓に運ばれます。肝臓はそれを代謝・解毒する役割を担っています。

「リアップ(ミノキシジル製剤)で肝臓がやられる」という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。実際、ミノキシジルは経口服用時に肝障害のリスクが報告されており、添付文書にも肝機能検査値の異常が副作用として記載されています。

頭皮に塗るタイプでも経皮吸収は起きます。もともと肝臓に負荷がかかっている状態に、さらに化学物質を加えれば——脇腹の違和感として体が教えてくれるわけです。

2|中医学が語る「肝と髪」の深い関係

中医学には「肝は筋・爪・髪を主る」という概念があります。

これは単なる比喩ではなく、中医学の生理学の核心です。肝の機能が健全であれば、血が豊かに全身を巡り、頭皮・毛根にも十分な栄養が届きます。逆に、肝の機能が乱れると——

肝血不足:頭皮への栄養供給が低下 → 抜け毛・乾燥・痒み

肝の疏泄の乱れ:気の流れが滞る → 頭皮の炎症・フケ

肝熱:余分な熱が上昇 → 頭皮の発赤・掻きむしり

「頭皮に症状が出ているとき、肝臓に何かが起きている」——中医学は2000年前からこのメカニズムを体系化していたのです。

3|育毛剤が「逆効果」になる本当の理由

ここに根本的なすれ違いがあります。

西洋的アプローチ中医学的アプローチ
症状(頭皮)に薬剤を直接作用させる根本(肝臓)を整えて症状を改善する
→ 化学物質が肝臓を追加負担→ 肝の血流・解毒力が向上し、頭皮が改善

もともと肝臓が弱っているから頭皮に症状が出ているのに、そこに肝臓で代謝される化学物質を追加する——これが「育毛剤をつけると脇腹が痛む」という現象の本質です。

4|神山先生が勧める「酢玉ねぎ」の科学

「酢玉ねぎを食べなさい」——これを聞いたとき、正直なところ半信半疑でした。しかし、調べると理にかなっていることがわかります。

玉ねぎ:ケルセチンの働き

肝臓の解毒酵素(グルタチオンS-トランスフェラーゼ等)を活性化

抗炎症作用で肝細胞の炎症を抑える

血流改善により、頭皮への栄養供給をサポート

酢(米酢・黒酢):クエン酸の働き

クエン酸回路を活性化し、肝臓のエネルギー代謝を改善

腸内環境を整え、肝臓への負担(腸肝循環)を軽減

血液のpHを整え、肝臓の解毒効率を上げる

中医学の「食薬同源」という考え方そのものです。食べ物が薬になる。副作用のリスクなく、毎日継続できる養生です。

5|頭皮の痒みが出たとき、まず振り返ること

神山先生の教えを受けてから、頭皮に症状が出たとき、私は最初にこう考えるようになりました。

「今、肝臓に負荷がかかっていないか?」

チェックリストとして——

この数日、飲酒量が増えていないか

睡眠時間が削られていないか(肝臓は夜中の1〜3時に最も活発に働く)

強いストレスや怒り・焦りが続いていないか(中医学では「怒りは肝を傷る」)

加工食品・添加物の多い食事が続いていないか

これらに心当たりがあるとき、頭皮への塗り薬より先に、「肝臓を休ませる養生」が先決です。

おわりに:知らないとやばい、体の声の読み方

育毛剤をつけて脇腹が痛くなる——この経験を「たまたま」で終わらせていたら、私はその後もずっと同じことを繰り返していたと思います。

体の症状は「どこかに問題がある」というシグナルであって、その「どこか」は症状が出ている場所とは限りません。頭皮の問題が肝臓から来ているように、体はつながっています。

中医学の知恵は、その「つながり」を読み解く地図です。神山先生の言葉を聞くたびに、現代医学では見えにくいその地図が少しずつ見えてくる気がしています。

まずは今日から、酢玉ねぎを食卓に。肝臓を労わる養生から始めてみましょう。

── 養生日和 TOMO


覚えておきたいQ&A

Q1|育毛剤を使うと脇腹が痛くなるのはなぜですか?

育毛成分(特にミノキシジル)は皮膚から吸収されたあと肝臓で代謝されます。もともと肝臓に負荷がかかっている場合、右脇腹(肝臓・胆嚢のエリア)に違和感として現れることがあります。症状が続く場合は使用を中止し、医師に相談してください。

Q2|中医学では頭皮と肝臓はどう関係していますか?

中医学では「肝は筋・爪・髪を主る」という概念があります。肝の機能(血の貯蔵・気の疏泄)が乱れると、頭皮への栄養供給が低下し、痒み・フケ・抜け毛などの症状が現れやすくなります。

Q3|頭皮のトラブルに酢玉ねぎが効くのはなぜですか?

玉ねぎのケルセチンが肝臓の解毒酵素を活性化し、酢のクエン酸が肝臓のエネルギー代謝を改善します。肝臓の機能が回復することで、頭皮への血流と栄養供給が改善されます。「食薬同源」の典型的な養生法です。

イライラして眠れない夜が続くあなたへ——神山先生が語る「肝鬱気滞」と加味逍遙散

特別なことは何もないのに、気持ちがざわざわして落ち着かない。夜、布団に入っても頭のなかでぐるぐると考えごとが回り続け、気づけば2時、3時。翌朝はだるさを引きずったまま出勤し、ちょっとしたことでイライラして家族に当たってしまう——。そんな日が続いていませんか。胸のあたりがつかえる、ため息が増える、生理前になると症状が重くなる。病院で検査をしても「異常なし」と言われる。けれど、確かに身体はつらい。その違和感は、あなたの思い過ごしではありません。東洋医学には、その状態を説明するはっきりとした言葉があります。

西洋医学から見る「ストレス性の不調」

西洋医学では、こうした症状はしばしば「自律神経失調症」「適応障害」「軽度のうつ状態」「更年期症候群」などと診断されます。処方されるのは抗不安薬、睡眠導入剤、抗うつ薬、あるいはホルモン補充療法などです。これらの薬は症状を一時的にやわらげる力を持っており、必要な場面では大きな助けになります。しかし、多くの方が「飲んでいる間は楽だが、根本的に変わった気がしない」「薬をやめるとまた戻ってしまう」という感覚を抱えています。なぜなら西洋医学は、脳内の神経伝達物質やホルモンという「結果」に働きかけるアプローチだからです。その手前で何が起きているのか、という問いへの答えは、東洋医学のなかにあります。

東洋医学が見る「肝鬱気滞(かんうつきたい)」という証

神山先生はこうした症状を、五臓のうち「肝」のはたらきが乱れた状態として診られます。ここで言う肝とは、現代医学の肝臓そのものではなく、気(エネルギー)をのびやかに巡らせ、情緒を整える機能のまとまりを指します。肝は「疏泄(そせつ)」という大切な役目を担っています。疏泄とは、気を身体のすみずみまでのびのびと流す働きのこと。ストレス、我慢、言えなかった言葉、やり場のない怒り——こうしたものが積み重なると、肝のはたらきが鈍り、気の流れが停滞します。これが「肝鬱気滞」という証(しょう)です。

気が滞ると、まず情緒に波が出ます。イライラ、憂鬱、ため息、胸脇部のつかえ。さらに滞りが続くと、上に昇って頭痛や不眠を生み、横に広がれば胃腸を乱して食欲不振や胃痛を招き、下に降りて生理痛や月経前症候群を重くします。「検査では異常なし」なのに全身のあちこちが不調なのは、ひとつの原因(気の滞り)が複数の場所に姿を変えて現れているからなのです。「病気」ではなく「気の病」。この見立てができると、ようやく次の一手が見えてきます。

神山先生が処方される漢方——加味逍遙散を中心に

肝鬱気滞の代表的な処方が「加味逍遙散(かみしょうようさん)」です。「逍遙」とはゆったり散歩するという意味。滞った気をほどき、血を補い、ほてりを鎮める——まさに「滞った心身を散歩に連れ出す」ような処方です。とくに、イライラとのぼせを伴い、月経トラブルを抱える女性に適しています。同じ肝鬱でも、胸脇の張りや腹部の違和感が強く、ストレス性の胃腸症状が前に出る方には「四逆散(しぎゃくさん)」。のどに何か詰まった感じ(梅核気)が強ければ「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」。不眠と動悸が目立つなら「抑肝散(よくかんさん)」や「加味帰脾湯(かみきひとう)」が候補になります。どの処方が合うかは「証」次第——舌の色、脈、お腹の張り方、体質の全体像から判断されるもので、自己判断ではなく必ず漢方に詳しい医師や薬剤師にご相談ください。

薬と並んで神山先生が必ず伝えられるのが、日々の養生です。①香りのよい食材(春菊、三つ葉、柑橘類、ミント、ジャスミン茶)で気を巡らせる。②夜11時までに寝る。肝が血を養う時間は23時から午前3時です。③軽いストレッチや散歩で身体の側面(肝の経絡が走る場所)をゆるめる。④泣きたいときは泣き、言いたいことは紙に書き出す。感情を溜めないことが、何よりの疏泄です。

まとめ——「治す」のではなく「巡らせる」

イライラや不眠は、あなたが弱いから起きているのではありません。我慢強く、真面目に、ずっと頑張ってきた肝が、少し息切れしているだけです。東洋医学は、その状態に「肝鬱気滞」という名前を与え、「気を巡らせる」という方向を示してくれます。加味逍遙散が力を貸してくれる場面もあれば、夜11時の就寝と柑橘の香りだけで十分なこともある。治すのではなく、整える。押さえ込むのではなく、流す。今夜、深呼吸をひとつ、ゆっくりと。


※本記事は東洋医学の考えに基づく養生の知恵を紹介するものであり、医療行為の代替を推奨するものではありません。症状がある方は必ず医療機関を受診してください。漢方薬の服用は、漢方に詳しい医師・薬剤師の指導のもとでお願いいたします。


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このアプリも、医療行為の代替を推奨するものではありません。症状がある方は必ず医療機関を受診してください。

ストレスで胃腸が弱る人へ——「加味逍遙散」と肝鬱脾虚という証

「仕事のストレスで胃がキリキリする」「イライラすると食欲が落ちる」「不安を感じると下痢をしやすい」——こうしたお悩みを抱えていらっしゃる方は少なくありません。病院で胃カメラを撮っても異常はなく、「ストレス性ですね」「自律神経の問題でしょう」と言われて、胃薬や抗不安薬を処方されて終わり。けれど、根本はちっとも変わらない。そんなもどかしさを、私自身も家内の介護を通して何度も味わってきました。

今日は「神山先生の教えから」として、ストレスと内臓の関係を漢方の視点から読み解きます。鍵になるのは、「肝鬱脾虚(かんうつひきょ)」という証と、そこに用いられる代表的な処方「加味逍遙散(かみしょうようさん)」です。

西洋医学から見た「ストレス性胃腸症状」

西洋医学では、ストレスによる胃腸症状は「機能性ディスペプシア」や「過敏性腸症候群」と診断されることが多いです。自律神経、特に交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、胃酸分泌や腸の蠕動(ぜんどう)運動が乱れるために起こると説明されます。

治療は、胃酸を抑える薬、腸の動きを整える薬、不安を和らげる抗不安薬などが中心になります。検査で異常が見つからないぶん、「気のせい」「性格の問題」と片づけられてしまうこともあり、患者さんの苦しみは理解されにくいのが現実です。

東洋医学は「肝」と「脾」の関係で見る

神山先生はよくこうおっしゃいます。「ストレスで胃腸を壊すのは、性格が弱いからではありません。肝(かん)と脾(ひ)という二つの臓が喧嘩を始めているのです」と。

東洋医学でいう「肝」は、西洋医学の肝臓とは少し違います。気(き)の巡りを司り、感情をコントロールする臓です。ストレスを受けると、まずこの肝の働きが滞ります。これを「肝気鬱結(かんきうっけつ)」と呼びます。気の流れが詰まった状態、いわば高速道路が渋滞しているようなイメージです。

ところが肝は、そのままでは済みません。渋滞した気は暴走を始め、隣の臓である「脾」を攻撃します。脾は消化吸収を担う臓で、ここが弱ると食欲不振、胃もたれ、下痢、疲労感が出てきます。これが「肝鬱脾虚(かんうつひきょ)」——肝の暴走によって脾が疲弊した状態です。

さらに女性の場合、肝は「血(けつ)」を蔵する臓でもあるため、月経不順、ほてり、のぼせ、不眠といった症状も加わりやすくなります。肝は血を蓄え、感情を調え、消化を支える——この一つが崩れると、芋づる式に全身が揺らぐのです。

加味逍遙散という処方——肝を疎(とお)し、脾を補い、熱を冷ます

この肝鬱脾虚に、熱(ほてり・いらだち)を伴うタイプに用いられる代表処方が加味逍遙散です。構成生薬を見ると、先人の知恵に唸らされます。

  • 柴胡(さいこ)・薄荷(はっか):滞った肝気を疎通させる(渋滞を解消する)
  • 当帰(とうき)・芍薬(しゃくやく):血を補い、肝を柔らかくする
  • 白朮(びゃくじゅつ)・茯苓(ぶくりょう)・甘草(かんぞう)・生姜(しょうきょう):疲れた脾を補い、消化力を取り戻す
  • 牡丹皮(ぼたんぴ)・山梔子(さんしし):暴走した気が生んだ熱を冷ます

つまり加味逍遙散は、「渋滞を解き、血を満たし、消化を助け、のぼせを冷ます」——四方向から同時にアプローチする、実に巧みな処方なのです。

適応する「証」の目安は、以下のような方です。

  • 比較的虚弱で、疲れやすい
  • ストレスでイライラしやすく、のぼせや肩こりがある
  • 食欲が一定せず、胃もたれや軟便傾向
  • 月経前症候群(PMS)、更年期の症状を伴う
  • 不眠、頭痛、めまいを訴えることもある

もちろん漢方は「証」に合っていてこそ効くものです。同じストレス症状でも、冷えが強く元気がない方には「香蘇散(こうそさん)」、喉のつかえ感(梅核気)が強い方には「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」、比較的体力があって脇腹の張りが強い方には「四逆散(しぎゃくさん)」と、使い分けが必要です。自己判断で選ばず、必ず漢方に詳しい医師・薬剤師にご相談ください。

今日から始められる養生——肝を疎し、脾を守る

処方を飲むかどうかにかかわらず、日常で肝鬱脾虚を和らげる養生はたくさんあります。

第一に、香りのあるものを取り入れること。柑橘類(みかん、ゆず、グレープフルーツ)、紫蘇、三つ葉、セロリ、ミント、ジャスミン茶。これらは肝気を疎通させる食材です。朝、ゆずの皮を白湯に浮かべるだけで、気の流れがすっと変わります。

第二に、脾を冷やさないこと。ストレスを感じるとつい冷たい飲み物や甘いものに手が伸びますが、これは脾にとって致命的です。温かいスープ、味噌汁、煮た根菜で脾を労わりましょう。

第三に、ため息を我慢しないこと。ため息は肝気が自分で出口を探している証拠です。抑えずに、ゆっくり深く吐く。意識的に「はぁー」と長く息を吐くだけでも、肝は少し楽になります。

まとめ——「治す」ではなく「整える」

ストレスで胃腸が弱るのは、あなたが弱いからではありません。肝と脾という二つの臓が、あなたの代わりに悲鳴を上げてくれているのです。加味逍遙散のような処方は、その悲鳴を聞き届け、渋滞を解き、疲れを癒やし、熱を鎮めるための、先人からの贈り物です。

大切なのは、症状を「消す」ことではなく、身体全体を「整える」こと。今日ため息を一つ深く吐き、温かい汁物を一杯いただく——それもまた、立派な養生の始まりです。

※本記事は東洋医学の考えに基づく養生の知恵を紹介するものであり、医療行為の代替を推奨するものではありません。症状がある方は必ず医療機関を受診してください。漢方薬の服用についても、必ず漢方に詳しい医師・薬剤師にご相談ください。

▶ なぜ私が養生を語るのか

漢方が続かない本当の理由――世界一の保険制度が生んだ「万単位アレルギー」

「効いてる気がする。でも、もう通えない」

鍼灸院や漢方薬局に通い始めて、体の調子が少し良くなってきた。肩の張りが和らいだ。眠りが深くなった。なんとなく、体が軽い。

でも、ふと請求書を見て我に返ります。

一回の施術が5,000円から8,000円。煎じ薬が月に15,000円。それが毎週、毎月、続いていく。保険が効かないから、全額が自分の財布から出ていく。

「効いてる気がする」と「でも、もう通えない」。この二つの感情が同時に存在するとき、ほとんどの人は後者を選びます。そして、体がまた元の状態に戻っていく。

この繰り返しを経験した人は、きっと少なくないはずです。


日本人は「医療費ゼロ」に慣れすぎた

なぜ、万単位の医療費がこれほどつらく感じるのか。

理由はシンプルです。わたしたちは、世界に類を見ない国民皆保険制度の中で育ったからです。

風邪をひけば内科へ行く。窓口で払うのは数百円。骨を折っても、手術をしても、自己負担は原則3割。高額療養費制度を使えば、月の上限を超えた分は戻ってきます。ヨーロッパで10年、北米で5年を過ごした経験から言えば、こんな国は世界中を探してもそうありません。

アメリカでは救急車を呼ぶだけで数十万円の請求が来ます。盲腸の手術で100万円を超えることも珍しくない。ヨーロッパでも、公的保険でカバーされない治療は普通に万単位の自費がかかります。

それに比べて日本は、高度な医療が驚くほど安く受けられる。これは本当に素晴らしいことです。感謝すべきことです。

しかし、この恵まれた環境が一つの副作用を生みました。

「医療にお金がかかる」という感覚そのものが、日本人の体から消えてしまった。


3割負担の「外」にある世界

保険診療の窓口負担に慣れきった感覚で自費診療の世界に足を踏み入れると、金額のギャップに打ちのめされます。

保険が効く漢方薬は、実はあります。ツムラの漢方エキス顆粒など、医師が処方すれば3割負担で手に入るものも少なくありません。でも、保険適用の漢方は種類が限られていて、一人ひとりの体質に合わせた細やかな調合ができるわけではありません。

本来の漢方の良さ――あなたの体質を見て、あなただけの処方を組む――を活かそうとすると、ほぼ確実に自費の世界に入ります。鍼灸も同様です。保険適用される疾患は限定的で、「なんとなく調子が悪い」「慢性的にだるい」といった養生的な使い方は、基本的に保険の対象外です。

すると何が起きるか。

月に数百円で通えていた内科と、月に数万円かかる漢方薬局を、同じ「医療費」として比較してしまう。比較した瞬間、漢方の側が「高い」と感じるのは当然です。でも、本当に高いのでしょうか。


「高い」の正体を分解してみる

ここで、感情を一度脇に置いて、数字を見てみます。

たとえば、慢性的な肩こりと不眠で困っている人がいるとします。

保険診療のルートを選ぶと、整形外科で湿布と痛み止めが出て、内科か心療内科で睡眠薬が処方されます。窓口負担は毎回数百円から千数百円。安い。でも、肩こりの根本原因にアプローチしているわけではないし、睡眠薬には依存性の問題もあります。そして何より、この通院は終わりが見えません。

一方、鍼灸と漢方のルートを選ぶと、月に2万円から3万円はかかるかもしれません。でも、体質そのものに働きかけるアプローチなので、うまくいけば数ヶ月後には通院頻度を減らせる可能性があります。

どちらが「高い」かは、実は簡単には言えません。

月々の支出だけを見れば保険診療が圧倒的に安い。でも、「5年間湿布を貼り続ける総コスト」と「半年間集中的に体質改善に取り組むコスト」を比べたら、数字はそこまで変わらないかもしれません。さらに言えば、体が楽になることで仕事のパフォーマンスが上がったり、疲労からくる判断ミスが減ったりする効果まで含めたら、計算はもっと複雑になります。

もちろん、これは「だから自費診療を選ぶべきだ」という話ではありません。万単位の出費が毎月続くのは、どう理屈をつけても家計にはきつい。それは紛れもない事実です。


だからこそ、「食養生」を主軸に据える

お金が続かないなら、お金のかからない方法を軸にすればいい。

答えは、実はずっと目の前にありました。毎日の「食事」です。

このブログで繰り返しご紹介している神山道元先生は、東洋医学の中でもとりわけ食養生の力を重視されています。漢方薬も鍼も、もともとは「食事だけでは追いつかないときの補助手段」として発展してきたもの。つまり、東洋医学の本来の主役は、薬局の棚に並ぶ生薬ではなく、あなたの台所にある食材なのです。

食養生の最大の強みは、毎日の食事の延長線上にあるということ。特別な材料を取り寄せる必要はありません。スーパーで買える食材で、今日の献立を少しだけ意識する。それだけで、体は変わり始めます。

冷えが気になるなら、生姜やネギ、ニラを意識的に使う。胃腸が疲れているなら、消化の良いお粥や温かいスープを取り入れる。季節の変わり目に体がだるければ、旬の食材で体を整える。こうした知恵は、何千年もの臨床経験に裏打ちされた東洋医学の真髄でありながら、一円の追加費用もかかりません。

いや、正確に言えば「食費は元々かかっている」わけですから、追加コストはほぼゼロです。買うものを少し変える。調理法を少し変える。食べるタイミングを少し変える。それだけのことです。


漢方と鍼は「切り札」として取っておく

食養生を日々の土台にしたうえで、漢方薬や鍼灸治療はどう位置づけるか。

わたしが提案したいのは、「切り札」として必要なときだけ使うという考え方です。

季節の変わり目に体調が大きく崩れた。ストレスが重なって眠れない日が何日も続いている。慢性的な痛みがセルフケアだけでは手に負えない。こういう「食養生だけでは追いつかない局面」が来たときに、初めて漢方の処方や鍼治療の力を借りる。

この使い方なら、月に何万円もの出費が延々と続くことはありません。年に数回、本当に必要なタイミングだけ。いわば、日常のメンテナンスは食養生で回して、大きな不調が来たときだけプロの力を借りる。車でいえば、毎日のオイルチェックや空気圧管理は自分でやって、エンジンの異音が出たときだけ整備工場に持っていくようなものです。

製造業で30年やってきた人間としては、この方がよほど腹に落ちます。設備保全の世界では当たり前の考え方です。日常点検(食養生)を丁寧にやっていれば、突発故障(大きな体調不良)は減る。そして突発故障が起きたときには、ケチらずにプロ(漢方・鍼灸)に診てもらう。


食卓が「診察室」になる

神山先生の教えで印象的なのは、食養生を「治療の代替」ではなく「暮らしの一部」として語られることです。

特別な健康食品を買いなさいとは言わない。高額なサプリメントを勧めることもない。あなたの体質と今の季節と、今日の体調を見て、冷蔵庫の中にあるものでできることを考える。それが食養生の本質です。

こう考えると、毎日の食卓が小さな「診察室」になります。自分の体の声を聴きながら、今日は何を食べるかを選ぶ。これは、誰かにお金を払って「やってもらう」ものではなく、自分で「やる」ものです。

受け身の患者から、能動的な養生者へ。この転換こそが、お金の問題を根本から解決する道だとわたしは考えています。


保険制度のありがたみ、その先にあるもの

日本の国民皆保険制度は、間違いなく世界の宝です。これを批判するつもりは微塵もありません。

でも、この制度がカバーしきれない領域があること。そして、その領域にお金をかけ続けられる人ばかりではないこと。この二つの事実から目を逸らしても、体は楽になりません。

だからこそ、お金のかからない食養生を目一杯活用して、自分の力で健康を取り戻す。そして、強力な漢方や鍼治療が本当に必要なときだけ、プロの力を借りる。

このブログ「養生日和」では、神山先生の食養生の知恵を中心に、あなたの台所から始められる養生の情報を発信していきます。供給側の「うちに来なさい」でもなく、制度側の「保険外は自己責任です」でもなく。あなた自身が、自分の体の主治医になるために。


Patchingworker keiken.blog「養生日和」

花粉症に効果てきめん、インドネシアのジャムウティー事件

「買ってきてくれない?」

インドネシアに頻繁に出張していた頃の話だ。

ジャムウティー。聞いたことはあった。SNSで「30年来の花粉症がピタリと止まった」「泥水みたいにまずいけど、クソ効く」と話題になっていた、インドネシアの伝統的な漢方茶だ。150gで6,000円。1杯あたり120円。安くはないが、毎年の花粉症の地獄を思えば試してみたくなる気持ちはわかる。

で、現地に着いて、インドネシア人の同僚や取引先に聞いてみた。

「ジャムウティーって、花粉症に効くの?」

返ってくる答えは、一様にこうだ。

「え? そんな効果、聞いたことないけど」


インドネシアでの「ジャムウ」の立ち位置

インドネシアで「JAMU(ジャムウ)」と言えば、日本でいう漢方のようなものだ。ウコンや生姜、各種ハーブを煎じた伝統的な飲み物で、街角にはジャムウ売りのおばちゃんがいるし、コンビニにもジャムウ系のドリンクが並んでいる。

ただ、現地の人たちにとってジャムウは「お腹の調子を整える」「疲れを取る」「体を温める」といった日常的な健康飲料であって、「花粉症を劇的に治す魔法の薬」という認識はない。

そもそもインドネシアにはスギ花粉がない。花粉症という概念自体が日常にない国で、「花粉症に効く」と言われても、現地の人はきょとんとするしかない。

「日本人が『めちゃくちゃ効く』って大騒ぎしてるんだけど」と言っても、「へえ、そうなんだ」くらいの反応だった。

この時点で、私の中にはうっすらと違和感があった。


効きすぎるものには、理由がある

帰国後、仕事仲間には「現地の人は花粉症への効果なんて知らないよ」と伝えたが、「でも実際に効いてるから」と一蹴された。まあ、効いているなら本人にとってはそれが正義だ。理屈はどうあれ、症状が消えるなら救いだろう。

しかし、時を同じくして、あのニュースが飛び込んできた。

2023年4月12日、国民生活センターが発表。

大阪の株式会社「香塾」が輸入・販売していた「ジャムー・ティー・ブラック」から、医薬品成分であるステロイド(副腎皮質ステロイド)が検出された、と。

事の発端は、ある利用者が花粉症の劇的な改善を喜んでいたところ、別の疾患で通院中の血液検査で異変が見つかったことだった。ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)やコルチゾールの数値が異常に低い。副腎機能が抑制されている。お茶をやめたら、数値は速やかに正常に戻った。

つまり、こういうことだ。

「天然ハーブ100%のお茶」と謳いながら、実はステロイド薬が混入されていた。

花粉症がピタリと止まったのは、ウコンや生姜の力ではなく、ステロイドが効いていただけだった。


現地の人が「知らない」と言った理由

この事件を知った瞬間、インドネシアの同僚たちの反応が腑に落ちた。

彼らは正しかったのだ。

本来のジャムウには、花粉症を「劇的に」止める力はない。体を温め、免疫を少しサポートする ── それがジャムウの本来の役割だ。「飲んだ瞬間に鼻水が止まる」ようなものではない。

現地の人が「そんな効果、聞いたことない」と言ったのは、彼らがジャムウの本来の実力を知っているからだ。本物のジャムウを飲んでいる人たちが「そんなはずない」と言うものが、なぜ日本で「劇的に効く」のか。答えは、そこに本来入っているはずのないものが入っていたからだ。


製造業30年の嗅覚

製造業に30年いると、「うまい話」には鼻が利くようになる。

品質が突然劇的に改善した ── 本当にプロセス改善のおかげか? 実は検査基準を変えただけじゃないのか。コストが突然下がった ── 本当に効率化か? 実は材料をこっそり変えていないか。

ものづくりの世界では、「結果が良すぎる時こそ疑え」は鉄則だ。

ジャムウティー事件も同じ構造だ。「30年来の花粉症が一発で治る天然ハーブティー」。この文面を工場の品質報告書に置き換えれば、即座に赤旗が立つ。

結果が原因に対して不釣り合いな時、そこには見えていない変数がある。


教訓:「効く」と「治る」は違う

この事件から得た教訓は、ビジネスにも人生にも通じる。

「効く」と「治る」は、まったく別のものだ。ステロイドは炎症を「抑える」。症状は消える。だが、花粉症の原因である免疫の過剰反応そのものは何も変わっていない。薬をやめれば元に戻る。そして長期間のステロイド摂取は、副腎機能を抑制し、別の健康リスクを生む。

これは組織の課題にも当てはまる。

研修を一発やって「従業員の意識が変わりました」と報告する。本当か? 表面的な行動が変わっただけで、根本的な考え方は変わっていないのではないか。そしてその「一発の研修」がステロイドのように、見せかけの改善を作り出しているだけではないか。

本当に「治す」には、時間がかかる。根気がいる。地味な積み重ねが必要だ。

まさに、乗り越えられない試練はない ── ただし、近道もない。


あの仕事仲間のその後

ちなみに、ジャムウティーを頼んできた仕事仲間はどうなったか。

事件発覚後、さすがにジャムウティーはやめた。「あんなに効いてたのに、ステロイドだったのか」としばらく落ち込んでいたが、結局その後、免疫は肝臓だ!!と、緑豆黒酢を試している。

泥水のような魔法の一杯より、毎日8粒の地道な治療。

結局、本物の解決とは、そういうものなのだと思う。


本稿は筆者の個人的な体験と見解に基づいています。

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