「買ってきてくれない?」
インドネシアに頻繁に出張していた頃の話だ。
当時、仕事仲間から「インドネシアに行くなら、ジャムウティーってやつを買ってきてくれない?花粉症にめちゃくちゃ効くらしい」と頼まれた。
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ジャムウティー。聞いたことはあった。SNSで「30年来の花粉症がピタリと止まった」「泥水みたいにまずいけど、クソ効く」と話題になっていた、インドネシアの伝統的な漢方茶だ。150gで6,000円。1杯あたり120円。安くはないが、毎年の花粉症の地獄を思えば試してみたくなる気持ちはわかる。
で、現地に着いて、インドネシア人の同僚や取引先に聞いてみた。
「ジャムウティーって、花粉症に効くの?」
返ってくる答えは、一様にこうだ。
「え? そんな効果、聞いたことないけど」
インドネシアでの「ジャムウ」の立ち位置
インドネシアで「JAMU(ジャムウ)」と言えば、日本でいう漢方のようなものだ。ウコンや生姜、各種ハーブを煎じた伝統的な飲み物で、街角にはジャムウ売りのおばちゃんがいるし、コンビニにもジャムウ系のドリンクが並んでいる。
ただ、現地の人たちにとってジャムウは「お腹の調子を整える」「疲れを取る」「体を温める」といった日常的な健康飲料であって、「花粉症を劇的に治す魔法の薬」という認識はない。
そもそもインドネシアにはスギ花粉がない。花粉症という概念自体が日常にない国で、「花粉症に効く」と言われても、現地の人はきょとんとするしかない。
「日本人が『めちゃくちゃ効く』って大騒ぎしてるんだけど」と言っても、「へえ、そうなんだ」くらいの反応だった。
この時点で、私の中にはうっすらと違和感があった。
効きすぎるものには、理由がある
帰国後、仕事仲間には「現地の人は花粉症への効果なんて知らないよ」と伝えたが、「でも実際に効いてるから」と一蹴された。まあ、効いているなら本人にとってはそれが正義だ。理屈はどうあれ、症状が消えるなら救いだろう。
しかし、時を同じくして、あのニュースが飛び込んできた。
2023年4月12日、国民生活センターが発表。
大阪の株式会社「香塾」が輸入・販売していた「ジャムー・ティー・ブラック」から、医薬品成分であるステロイド(副腎皮質ステロイド)が検出された、と。
事の発端は、ある利用者が花粉症の劇的な改善を喜んでいたところ、別の疾患で通院中の血液検査で異変が見つかったことだった。ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)やコルチゾールの数値が異常に低い。副腎機能が抑制されている。お茶をやめたら、数値は速やかに正常に戻った。
つまり、こういうことだ。
「天然ハーブ100%のお茶」と謳いながら、実はステロイド薬が混入されていた。
花粉症がピタリと止まったのは、ウコンや生姜の力ではなく、ステロイドが効いていただけだった。
現地の人が「知らない」と言った理由
この事件を知った瞬間、インドネシアの同僚たちの反応が腑に落ちた。
彼らは正しかったのだ。
本来のジャムウには、花粉症を「劇的に」止める力はない。体を温め、免疫を少しサポートする ── それがジャムウの本来の役割だ。「飲んだ瞬間に鼻水が止まる」ようなものではない。
現地の人が「そんな効果、聞いたことない」と言ったのは、彼らがジャムウの本来の実力を知っているからだ。本物のジャムウを飲んでいる人たちが「そんなはずない」と言うものが、なぜ日本で「劇的に効く」のか。答えは、そこに本来入っているはずのないものが入っていたからだ。
製造業30年の嗅覚
製造業に30年いると、「うまい話」には鼻が利くようになる。
品質が突然劇的に改善した ── 本当にプロセス改善のおかげか? 実は検査基準を変えただけじゃないのか。コストが突然下がった ── 本当に効率化か? 実は材料をこっそり変えていないか。
ものづくりの世界では、「結果が良すぎる時こそ疑え」は鉄則だ。
ジャムウティー事件も同じ構造だ。「30年来の花粉症が一発で治る天然ハーブティー」。この文面を工場の品質報告書に置き換えれば、即座に赤旗が立つ。
結果が原因に対して不釣り合いな時、そこには見えていない変数がある。
教訓:「効く」と「治る」は違う
この事件から得た教訓は、ビジネスにも人生にも通じる。
「効く」と「治る」は、まったく別のものだ。ステロイドは炎症を「抑える」。症状は消える。だが、花粉症の原因である免疫の過剰反応そのものは何も変わっていない。薬をやめれば元に戻る。そして長期間のステロイド摂取は、副腎機能を抑制し、別の健康リスクを生む。
これは組織の課題にも当てはまる。
研修を一発やって「従業員の意識が変わりました」と報告する。本当か? 表面的な行動が変わっただけで、根本的な考え方は変わっていないのではないか。そしてその「一発の研修」がステロイドのように、見せかけの改善を作り出しているだけではないか。
本当に「治す」には、時間がかかる。根気がいる。地味な積み重ねが必要だ。
まさに、乗り越えられない試練はない ── ただし、近道もない。
あの仕事仲間のその後
ちなみに、ジャムウティーを頼んできた仕事仲間はどうなったか。
事件発覚後、さすがにジャムウティーはやめた。「あんなに効いてたのに、ステロイドだったのか」としばらく落ち込んでいたが、結局その後、免疫は肝臓だ!!と、緑豆黒酢を試している。
泥水のような魔法の一杯より、毎日8粒の地道な治療。
結局、本物の解決とは、そういうものなのだと思う。
本稿は筆者の個人的な体験と見解に基づいています。
Patchingworker keiken.blog ── 乗り越えられない試練はない

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